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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
魔手

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37/72

トローフェイルの戦い

 オルドナ伯領の情勢は混沌としていた。


 ヌヴァロークノから続々と移民が殺到し、ミラロールはヌヴァロークノ人であふれた。当初3000だったヌヴァロークノ兵も1万を数えた。

 ヌヴァロークノ王クーデル3世は、集結した兵を再編するとオルドナ伯領の中心都市トローフェイルを攻略するために出陣した。

 トローフェイルの留守居役を任されたヌリメリルは情報収集に努め、ミラロールがヌヴァロークノ人によって堅固に防御されていること、ヌヴァロークノの大軍が接近していることをつかんでいた。籠城策を唱える者もいたが、ヌヴァロークノ軍がトローフェイルにこだわるかどうかが問題だった。オルドナ伯領の兵力をトローフェイルに集めつつある今、他の街は無防備に近い。

 ならば他の街を攻略しようとしているヌヴァロークノ軍の背後を衝けばよいという意見も出たが、敵も攻撃を受けることは十分に警戒しているだろう。その場合、陣地構築した敵を攻撃することになる。

 ミラロールの奪還を優先するという案も、手こずっている間にヌヴァロークノ軍が反転してきたら挟撃されるという恐れから忌避された。

 こうして、半ば消去法によってトローフェイル外で野戦を挑むことになった。トローフェイルから1キメルほど北にある丘陵部を先に押さえて待ち受けることで、有利に戦えるという目算もあった。

 オルドナ伯軍の主力となる歩兵2000をその丘陵部に配置し、堀を穿って野戦陣地を構築した。丘陵部の左右やや後方にそれぞれ歩兵2000と騎兵1000を配置し、丘陵部の主力を攻める敵を両翼から半包囲する態勢を整えた。ヌリメリルは、現有戦力で取り得る最善策を取ったと言っていいだろう。


 ヌヴァロークノ軍は歩兵で構成されており、指揮官と思われる者だけが馬に乗っていた。彼らの装備は短槍と盾で、帝国の歩兵のような長槍を持つ者はいなかった。

 ヌヴァロークノ軍はオルドナ伯軍が前方に布陣しているのを認めると、進軍を停止して長大な横陣を展開し始めた。兵と兵の間も広く、この点も密集隊形を取る帝国の歩兵とは異なっていた。

 ヌヴァロークノ軍は布陣を終えると前進を開始した。オルドナ伯軍は動かず、彼我の距離が100メルを切ったところで弓兵による攻撃を開始した。ヌヴァロークノ軍は盾で矢を防ぎつつ前進を続けた。彼らが持つ盾は大型で、ほとんどの矢はこの盾によって防がれてしまった。

 両軍の間が70メルを切ると、ヌヴァロークノ軍は中央で軍を二分し、左右に分かれてオルドナ伯軍の両翼を包囲する態勢に入った。

 ヌヴァロークノ軍を包囲するつもりだったヌリメリルは慌てた。両翼に配置した騎兵を前進させて包囲を妨害せよと命じた。だがその命令は遅きに失した。ヌヴァロークノ兵は短槍を騎兵、正確には馬に投擲すると、広く空けた間を通って後列に回った。最前列になった第2陣もまた、馬に向かって短槍を投げて後列に回った。オルドナ伯軍の両翼に配置されていた2000の騎兵は、十分な作戦行動を取る前にこの投げ槍によって壊滅的な打撃を受けた。

 こうして、オルドナ伯軍の左右の2000の歩兵がヌヴァロークノ軍の歩兵5000にそれぞれ包囲される形になった。丘陵部に配置された2000は遊兵と化していた。

 長槍を構えて密集隊形を取るオルドナ伯軍の歩兵に対して、ヌヴァロークノ軍の歩兵は戦列を形成せずに距離を詰めた。

 短槍をまだ持っていたヌヴァロークノ歩兵は槍を投擲した。密集隊形のオルドナ伯軍歩兵はこれを避けることもできず、次々に倒されていった。

 オルドナ伯軍の歩兵は、長槍を立てて攻撃態勢を取った。これを見たヌヴァロークノ軍歩兵は、盾を捨てて身軽になり、走って一気に接近した。

 長槍の破壊力は強大だが、その威力を発揮するのは槍の先端部である。槍を倒す前に接近されると威力は半減する。剣が届く距離では長槍の威力などないに等しい。

 ヌヴァロークノ軍の歩兵が持つ剣は刃渡りが短く、乱戦時でも取り回しが容易だった。懐に入り込まれたオルドナ伯軍の歩兵たちは一方的に倒されていった。

 丘陵部の主力が丘から下りて参戦しようとした頃には両翼は全滅しており、丘陵部は完全に包囲されていた。

 ヌリメリルは2000の兵と共に降伏し、オルドナ伯軍は消滅した。

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