真相
皇帝が崩御して以来、ロレンフスの様子がおかしいことをエルエンゾは憂いていた。憂いは、時とともに疑念に変わっていった。
父の死はロレンフスに衝撃を与えたかもしれない。それは余人をもってはいかんともし難い。しかし、いずれは立ち直られると信じていた。だが、2カ月を経てもロレンフスは何やら屈託しており、大公時代の果断な行動力は見る影もない。
さらに不審なのは、エルエンゾの父の増長ぶりである。皇帝と諸侯の会話に口を挟むなど、宮内伯がすべきことではない。国政に介入するなど、侍従長といえども許されない。そして、そのような父をロレンフスが許していることも考え難いことだった。大公時代のロレンフスであれば、「侍従長ごときが出しゃばるな」と一喝したことだろう。
「両者の間に何かがあった」とエルエンゾは確信した。以来、彼はロレンフスと父トウエスエの様子を観察し続けた。すると、ロレンフスは単に思考を停止しているわけでも判断を先延ばしにしているだけでもないことが分かってきた。
フォロブロンらの進言に対して見せる真摯な目差し。熟考する素振り。そして何より、トウエスエに向けられる激しい憎悪の目。
トウエスエはというと、ロレンフスの視線に気付いているのかいないのか、ロレンフスの心中を意に介することがないような振る舞いを見せる。
フォロブロンに相談すべきか。フォロブロンは、トウエスエに対して明らかに不快感を抱いている。味方になってくれる可能性は高いが、トウエスエの子であるエルエンゾを信頼してくれるだろうか。トウエスエの罠であると警戒される恐れもある。それに、フォロブロンを巻き込めることであればロレンフスがそうしているはずだ。するとフォロブロンにも明かせない事情があるのだ。
ある日、用事を済ませてロレンフスの執務室に戻ろうとしたとき、ロレンフスとトウエスエが言い争う声が聞こえてきた。
「インジョウ卿の娘婿の件は拒絶したはずだ」
「ですからご再考を。ぜひともあの副伯領をお与えいただきたい」
「何の功績もなく領地を与えられる訳がない。インジョウ卿の閨閥をこれ以上優遇することはできぬ」
「あのことをお忘れなら、改めて申し上げましょう。先帝陛下を弑し奉った大公を庇ったのは誰か。帝位につけたのは誰のおかげか」
「先帝陛下を弑し奉った」?
父が発した言葉に、エルエンゾは驚愕した。父は何を言っているのだ。先帝を、ロレンフスが殺したというのか?
トウエスエの私室を訪ねたエルエンゾは、小細工抜きで切り込んだ。
「今日、父上と陛下の会話を聞いてしまいました。陛下が先帝陛下を弑し奉ったというのは本当ですか」
「盗み聞きは感心せぬな」
「私の聞き間違いでなければ、我が家の栄華は約束されたようなもの。一体、どうやって陛下の弱みを握られたのですか」
エルエンゾの誘導に、トウエスエはあっさり引っ掛かった。底が浅い男なのである。
「見てしまったのだ。現場をな」




