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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
嵐の始まり

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27/75

ミラロール失陥

 その日、オルドナ伯領の港町ミラロールは、平凡な1日を終えた。夕暮れ時から夜半まで大時化だったため漁に出る船もなく、夜明け直前の港は静寂に満ちていた。

 そこに、突如として無数の軍船が殺到してきた。停泊していた漁船を破壊しながら桟橋や係留所に着けた軍船から、大勢の兵士が下りてきた。彼らは寝静まった街に散らばり、住民たちを殺し、犯し、縛り上げた。

 さほど大きくもない港町は、3000の兵によってあっという間に制圧された。

 第1陣3000人を皮切りに、船が港に次々に到着した。兵士だけでなく、女子供を連れた平民も多く含まれている。彼らは兵士たちが住民から奪い取った家屋に入った。

 

 ミラロールから逃げ延びた住民らの知らせで、周辺の街や村も異変に気付き始めた。ミラロール沖の島を母港とするオルドナ水軍も、海上に逃れた漁師らの知らせを受けて軍船を出し、北海の沖合から多くの船がミラロールに向かっているのを発見した。偵察用の小舟でミラロールに近づくと、正体不明の軍船で港があふれかえり、多数の兵士が跋扈していた。街のほうぼうで悲鳴が上がっている。

 オルドナ水軍の長、ヘルゲデンは隣国ファッテン伯領の島を根城にしているガロナ水軍に援軍を求めた。オルドナ水軍だけではどうすることもできない数だった。

 「お頭、ありゃ何ですかね。船の数が尋常じゃねぇ」

 「港は軍船まみれだが、今海上にいるのは漁船のようだな……。こいつら、何なんだ。まるで国ごと引っ越ししてきたみてぇじゃねぇか」


 そのころオルドナ伯は、急遽招集できた500騎を率いて行動を開始していた。オルドナ伯の居城はミラロールから15キメルほど南にあるトローフェイルという街にある。馬ならば太陽が15度ほど移動するくらいの時間で着ける。

 ミラロールから逃げてきた者たちの証言はまちまちで、敵の正体も兵力も分からない。この時点で、事態の全貌を把握している人間は誰もいなかった。取りあえず、敵は軍船でやって来て全て歩兵であるという情報から、騎馬による威力偵察は可能と踏んだ。

 オルドナ伯は、トローフェイルにヴァル・ヌリメリル・ベルベインを留守居役として残し、領内の領主たちに軍役を課すこと、帝都に早馬を出すことを指示するとミラロールに向かった。

 ミラロールに接近すると、300ばかりの歩兵が出てきた。オルドナ伯は困惑した。敵兵力はあの程度なのか。それともミラロールに主力が残っているのか。しばし逡巡したが、あの300人を攻撃して捕虜を取ることにした。手をこまねいていては情報も得られない。

 300の敵兵に向かって突進すると、左右の岩陰から多数の敵兵が現れて退路を断った。

 「伏兵か!」

 気付いたときには、4000ほどの敵兵に包囲されていた。

 「我々が血路を開きます。伯爵だけでも落ち延びてくだされ」

 家臣たちが突破口を開けようと奮戦するが、10倍近い敵兵にはなすすべもない。

 オルドナ伯は、その槍で敵兵の頭蓋を7つたたき割ったが、8人目に向き合った際に脇腹を槍で突かれた。動きを止めたオルドナ伯の腹や背中に、さらに槍が突き立てられる。

 他の家臣らもオルドナ伯と同じ運命をたどり、500騎は全滅した。


 海上では、ヘルゲデンの求めに応じてガロナ水軍がやって来た。ガロナ水軍の総帥ガロナ・ベンブークの座乗船がヘルゲデンの船の隣に横付けされる。

 「ふん、相変わらず見事な操船だな」

 向こうの船にガロナの姿を認めて、ヘルゲデンは笑った。ガロナとは、頭のイカれた監察使が6年前に起こした大騒動に巻き込まれて以来の付き合いである。

 ヘルゲデンの指示で、旗手が手旗信号で「出陣する」と伝えると、ガロナ側の旗手が「さっさと行け」と返してきた。相変わらずだ。

 「よし、てめぇら出るぞ」

 オルドナ水軍とガロナ水軍の連合軍は、港を封鎖するように展開しつつ、港内に進入した。これで敵の軍船は自由に動けない。その間に火矢を放って焼き払うのだ。

 だが、敵の軍船のほとんどは港内から姿を消していた。異変に気付いたときには、既に背後から敵の軍船の主力がせまってきた。軍船から大量の矢が射込まれ、漕ぎ手たちが射倒されていく。

 「敵さんの操船も大したもんじゃねえか」。ガロナは素直に称賛した。こちらの作戦は悪くなかったはずだが、敵の作戦はことごとくその上を行っていた。こうなっては、作戦も何もない。敵の船に乗り込んで白兵戦でけりをつける。

 「敵さんの船に乗り込む! 全員白兵戦用意!」

 ガロナの船から、鉤針を結び付けた縄が敵の軍船に投げ込まれる。その縄を引き寄せて船を横付けして乗り込もうというのである。だが、敵の軍船に乗っていたのは水兵ではなかった。甲冑を着けた完全武装の歩兵である。海に落ちれば確実に溺死するが、船上にいる限りは強い。水軍の者たちは、海に転落することも想定して簡素な防具しか着けていない。

 敵は船の上で横陣を張り、ガロナの手下を寄せ付けない。ガロナ自ら切り込んで乱戦に持ち込んだが、長くは続かなかった。

 水軍の常套手段が全く通用しない敵によって、ガロナ水軍は徐々に追い詰められ、そして全滅した。

 ガロナもまた、全身に数十カ所の傷を受けて絶命した。ヘルゲデンはガロナよりもわずかに長く生きたが、腹に致命傷を受けて海に落ちて死んだ。

 こうして、オルドナ水軍の大半とガロナ水軍の半分が消滅した。

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