喪失
帝都にあるカーリルン公邸にウィンとアルリフィーアが戻って程なくして、雨が降ってきた。ウィンは喪服も脱がず、窓辺に座って雨を眺めていた。
簡素な平服に着替えたアルリフィーアは、ウィンの頭をコツンと小突いて「いつまでそんな格好をしておる。さっさと着替えてこい」と促した。
皇帝崩御の知らせを受けて以来、ウィンはほうけていることが多い。ウィンの心境は分からないが、葬儀が終わったことでもあるし一区切り付けるべきだろう。
アルリフィーアはウィンの頭を抱き締めて、「いかがした?」と問い掛けた。燃えるような赤毛の上に、頬を載せた。
「自分でも、よく分からない。これはどんな感情なんだろう」
悲しんでいるのか。違う。10歳になるまで父親のことなど何も知らされず、親子として接したこともない。訃報を知ってから、ずっと考え続けたが、やはり悲しみの感情はない。
ならば怒りか。皇帝が、母を弄び、捨てた男だ、と知ったのはさらに後のことである。だがその時点では、その意味を理解できなかった。理解できるようになった頃には、貴族社会についての知識も付いており、「まあそんなもんだろう」という感想にとどまった。怒りはない。恨みも、多分ない。
もちろん、喜んでもいないし楽しくもない。
「なら、私は何で落ち込んでいるんだろう」
「そうじゃな。人の心というものは不可解じゃのう」
アルリフィーアには、ウィンのとりとめもない吐露を聞きながら、胸にいだいたウィンの頭を優しくなで続けた。彼女が幼い頃、母にこうして頭をなでてもらうのが好きだった。なでられるととても落ち着き、安らいだ。母が死んだとき、もう頭をなでてもらえないのだと思うととても悲しかった。
「あ……」。アルリフィーアの心の中に何かが浮かんだ。
「ウィン、もしお父上がこの先もご健在であれば、どうした? 何がしたかった?」
「皇帝が生きてたら? そうだね……諸侯としてちゃんと領国を統治して、一回くらいは『よくやった』と……」
「うん」
「そうか。私は、父上に認めてもらいたかったんだ」
そう言って、ウィンは一筋だけ涙を流した。ウィンの頭を抱き締めていたアルリフィーアにはそれは見えなかったが、ウィンの感情は伝わっていた。




