葬列
皇帝の葬儀が11月15日に執り行われることになった。帝国辺境部の諸侯の上洛に配慮した日程である。
ロレンフスは皇帝崩御の発表と時を同じくしてスルヴァール王に即位し、ゼンメルセ公を継承した。ただし、皇帝になるためには枢機侯会議における皇帝選挙を通して皇帝に推戴される必要がある。
帝都での所要を済ませて領地に帰還する途中だったワルヴァソン公は、途中で訃報を知らされて帝都に引き返してきた。彼は皇帝宮殿に参内するとロレンフスや皇妃のクテノーフェに悔やみを言い、その後亡き皇帝が仮安置されている部屋に通された。
「ふん、風邪ごときでくたばるとは、見損なったぞアートルザース」
ワルヴァソン公は終始怒ったような顔をしていたが、実際に怒っていた。何に怒っているのかは、本人にも分からない。
彼は、棺の中の皇帝を長いこと見つめていた。彼の心境は誰にもうかがい知ることはできなかった。声を掛ける者も居なかった。
納得したのか、ワルヴァソン公はその場を離れる素振りを見せた。だが、そこで動きが止まった。ワルヴァソン公は、少しずつ見る位置を変えながら、皇帝の顔をしげしげと眺めた。
そして、ようやくその場を後にした。家臣のヴァル・ナルナーソン・セーエンゾルが「いかがなさいましたか」と問い掛けると、ワルヴァソン公は「鼻が」と言いかけて口を閉ざし、その日はそれから一言も言葉を発しなかった。
帝国歴226年11月15日。
帝都守護番の士爵500人が、完全武装して沿道の左右に分かれて整列した。彼らの後ろに控えた従者が帝国旗を高々と掲げ、旗は寒風に煽られてはためいている。
士爵らは、一糸乱れぬ動きで抜刀し、天に向かって剣を突き上げた。
侍従長のマーティダが先導し、その後ろに宮内伯らが担ぎ上げた棺が続いて、士爵たちの列の間を進んだ。馬車は使わない。皇帝の棺は人の手によって運ばれるのが慣例であった。
その後ろから、スルヴァール王ロレンフス、皇妃クテノーフェ、スルヴァール王妃カレナーティア、大公ムルラウ、トールティス、大公女アストライエ、アミラミエ、側室ミーフェレアノ、さらに皇帝の兄弟たちが付き従う。側室は親族ではなく正室の家臣に過ぎないため、原則として葬列には加われない。ただし、正室が許可した場合あるいは大公、大公女を生んだ側室は、彼らの生母の資格で葬列に参加できる。ミーフェレアノはトールティスとアミラミエの母として葬列に列した。
士爵らの列の先は、貴族たちの列である。宮廷の序列に従って、枢機侯、公爵、伯爵、副伯が沿道の両側に並ぶ。それ以下の貴族は原則として参列しない。
葬列は死者の国を司る神デズダウロンの神殿に到着した。だが、神殿の門は固く閉ざされている。
侍従長が進み出ると、門をたたいて「開門!」と高らかに呼び掛けた。
門は開かない。門の向こう側から問い掛ける声がする。
「門をたたく者は何者か。我が神殿を訪う者は何者か」
侍従長は答える。
「我はスルヴァール王にしてゼンメルセ公、ガデリゾン公、ファルファイン公、ペイフェン伯、ロスレック伯、多くの領地を統べる者。帝国の偉大なる皇帝アートルザース3世である」
「デズダウロンはそのような者を知らぬ。去るがよい」
「我は皇帝、アートルザース3世である」
「デズダウロンはそのような者を知らぬ。去るがよい」
侍従長は、流れるような動作で跪き、再び答える。
「デズダウロンの庇護を求める者アートルザースでございます」
すると神殿の門が静かに開かれた。門は神官長の手で開かれるのが慣例である。
「庇護を求める者アートルザースよ、入りなさい。デズダウロンの庇護下で安寧を得ることを許そう」
門の手前で、棺の担ぎ手は宮内伯から神殿の神官たちに引き継がれた。門から先は死者の国。神官以外の生者は入ることが許されない。葬列は、神官長を先頭にして神殿の奥へと向かっていった。
こうして、皇帝アートルザース3世は庇護を求める1人の人間として死者の国に迎えられた。彼の棺は、神殿の奥にあるティーレントゥム家の霊廟に安置される。
再び門が閉ざされたのを見届けると、侍従長は静かに立ち上がり、右手を左胸に当てて神殿に向かって礼をした。慣例に従って、この時をもってマーティダは侍従長の任を解かれた。




