フォロブロン
「よく来てくれた、アレス副伯」
ロレンフスは笑顔でフォロブロンを向かえると、席を勧めた。
フォロブロンは、やや緊張した面持ちでロレンフスの向かいの席に腰を下ろした。ロレンフスとは面識もあり、会うこと自体にはさほどの緊張はない。ただ、大公の真意が読めない。
「ナルファストやラフェルスでの活躍は聞いている」
「ラフェルスでは戦闘らしい戦闘はありませんでしたが……」
「警戒しているようだな。不安か? 副伯を呼び立てた目的が分からなくて。それとも、分かっているからか?」
「殿下、意地の悪いおっしゃりようはおやめなさいませ」
茶道具一式を両手に持った大公妃カレナーティアが、ロレンフスに苦言を呈しながら近づいてきた。侍従らではなく大公妃が自ら給仕をするという待遇に、フォロブロンはますます警戒を強めた。
カレナーティアは発酵させた茶葉を慣れた手つきで茶器に入れ、熱湯を注ぎ入れた。砂時計を反転させ、砂が落ち切ったのを見計らってから各自の茶碗に茶を注いだ。
大公妃に「どうぞ」と言われては、手を付けない訳にはいかない。フォロブロンは、一礼すると茶碗を口に運んだ。
恐らくその頃合いを見計らって、ロレンフスは口を開いた。
「迂遠なことは好まぬから単刀直入に言おう。副伯が欲しい。私に力を貸してくれ」
やはりそういう話か……。
大公が陣営を固めているという噂は耳にしていた。それ自体は悪い話ではない。信頼できる家臣を自ら選んでそろえるのは、いずれ帝位を継ぐ者として当然の準備だった。皇帝に与えられた付家老だけでは足りないし、独自色を出したいという面もあるだろう。
問題は、皇帝と大公の間に隙が生じているという噂だった。両者の対立に巻き込まれてはたまらない。
にわかに返答できずにいるフォロブロンを見て、ロレンフスとカレナーティアは笑顔を見せた。
「副伯は慎重だな。私は別に父と争うために貴公を引き込もうとしている訳ではない。いつかのために、優れた人材を掌握しておきたいだけだ」
カレナーティアは何も言わず、茶皿を左手に持ち、そこから茶碗をそっと取り上げて唇を付けた。「茶を飲む姿が優雅で絵になる女性だな」とフォロブロンは思った。
ロレンフスの言に嘘はないのだろう。過大評価されているような気もするが、ロレンフスなりにフォロブロンを評価した上での声がけなのは分かった。
だが。
他にも思惑があるのだろう。
「ラフェルス伯陣営から引き離したい、ということですね」
カレナーティアが、フォロブロンを興味深げに見つめた。フォロブロンの問いがお気に召したようだ。ロレンフスも口角を上げてフォロブロンを見つめていた。
「察しがいいな」
「殿下はラフェルス伯をどうするおつもりで?」
「どうしもしないさ。私は誰であろうと正当に向き合うつもりだ」
やはり、ウィンとティーレントゥム家の間には何かある。ナルファスト以来の疑念は確信に変わった。そうであるならば、両者を知る自分が間に入ることには価値があるかもしれない。
「殿下を失望させぬよう、全力でお仕え致す」
こうして、フォロブロンはロレンフスの幕僚の席に連なることになった。




