第15章 第5話 再臨
轟音と共に大地が裂け、空に黒い稲妻が奔った。
封印の中心が崩れ落ち、瘴気が天を突き抜けるように溢れ出す。
その光景はまるで、大陸そのものが産声を上げるかのようだった。
マリアが絶望の声を上げた。
「……封印が……完全に壊れた……!」
石壁が砕け、地の底から鼓動のような震えが伝わってくる。
どくん、どくんと、大地そのものが心臓を打つかのように。
裂け目の奥から現れたのは、形を持たぬ巨塊。
黒き肉塊が脈打ち、無数の眼が瞬き、口のような穴が呻き声を放つ。
その存在は、生命でありながら生命ではなかった。
「……これが……虚無の胎……!」
ライラの声が震えた。
肉塊から吐き出される瘴気が、兵士や民を次々と異形へ変えていく。
それはまさに「母胎」――人を喰らい、人を産み変える存在だった。
ラシードは剣を杖代わりにして立ち上がり、唇を噛みしめる。
「こんなもん……どうやって……」
典院長が両腕を広げ、瘴気の渦の中で高らかに叫んだ。
「見よ! 虚無の胎が再びこの大地に降り立った!
旧き秩序は終わり、人はひとつの母胎に還る!
これぞ――再編だ!」
その声は雷鳴のように大陸全土へ響き渡り、どこにいても耳に届くかのようだった。
兵も民も、恐怖に膝をつき、絶望に沈んでいった。
私は震える足で立ち上がった。
胸の奥には恐怖しかなかった。
だが、腕の中に抱いた小さな子どもの瞳が、必死に未来を求めていた。
「……まだ終わってない」
私は杖を掲げ、声を張り上げた。
「聞け、書架院! 虚無の胎よ!
お前がどれほど世界を呑み込もうとも――未来は奪わせない!
私たちが、この手で託す!」
声は瘴気に掻き消されそうになりながらも、確かに届いた。
マリアは涙を拭い、光を掲げた。
「一緒に……守ろう!」
ライラは短剣を構え、かすかに笑った。
「なら、最後まで踊ってあげるわ」
ラシードは血に濡れた剣を振り上げ、低く唸った。
「俺は……死んでも守る。お前たちと、この未来を」
虚無の胎が咆哮を放った。
空が裂け、瘴気が大陸を覆い、世界が終わりへと傾いていく。
だが、その絶望の中で、確かにひとつの光が燃えていた。
英雄たちの誓い――未来を託すための戦いが、今まさに始まろうとしていた。




