第15章 第3話 仲間の限界
古代遺跡から逃れた直後、ラシードは膝をついた。
その背の傷はすでに限界を超えており、歩くたびに血が滴り落ちていた。
「……まだ戦える……俺はまだ……」
彼は歯を食いしばり立ち上がろうとしたが、その身体は震えて剣を持ち上げることすら難しかった。
マリアが駆け寄り、涙に濡れた顔で必死に治癒を施す。
「お願い……もう戦わないで。これ以上血を流したら……!」
光は彼の傷を覆うが、深く刻まれた痛みは消えない。
ラシードは薄く笑みを浮かべ、掠れた声で言った。
「俺は……仲間を守るために生きてる。剣を置いたら……俺じゃなくなる」
マリアは震える手でラシードの胸に縋りついた。
「でも……生きててほしいの。ラシードがいなきゃ、わたし……!」
彼女の声は涙で途切れ、光は弱々しく揺らいだ。
守りたい人と、救わねばならない世界。
その狭間で、彼女の心は引き裂かれていた。
私は胸が締め付けられるのを感じた。
――マリアに「選べ」とは言えない。
それは残酷すぎる選択だった。
少し離れた場所で、ライラは短剣を弄びながら俯いていた。
「……結局、私たちは何を守ってるのかしら」
その声は炎に溶けるほど小さく、しかし鋭かった。
「国も、人も、未来も……全部壊れていく。
あの書架院の言葉が正しいんじゃないかって、一瞬でも思った自分が嫌になる」
彼女の目には深い影が宿っていた。
過去を断ち切ったはずの彼女でさえ、未来を信じきれなくなっていた。
私は三人を見渡し、言葉を失った。
仲間は皆、限界に追い詰められていた。
ラシードの命は燃え尽きかけ、マリアは愛と使命の狭間で泣き、ライラは信念を見失いかけている。
私自身もまた、胸の奥に疑念を抱いていた。
本当に全てを救えるのか?
この手で守ろうとする未来は、幻ではないのか?
炎の中で誓った言葉が揺らぎそうになり、足元が崩れ落ちる感覚に襲われる。
そのとき、マリアの小さな声が響いた。
「……でも、やっぱり信じたい。ラシードも、ライラも、リディアも……わたしはみんなを失いたくない」
ライラが顔を上げ、かすかに笑った。
「……泣き虫のあんたに言われると、逆に諦めがつかないわね」
ラシードは血に濡れた手で剣を握り直した。
「まだ終わっちゃいねぇ……俺たちが繋いできたもんを、ここで捨てるわけにゃいかねぇ」
私は深く息を吸い込み、胸の奥から声を絞り出した。
「そうだ……どんなに限界でも、絆がある限り立ち続ける。
それが――私たちの戦いだ」
その時、大地が大きく揺れた。
遠くの山が崩れ、黒い瘴気が空へと噴き上がる。
封印の裂け目が拡大し、虚無の胎が目を覚まそうとしていた。
仲間は限界に追い込まれながらも、私たちは杖と剣を握り、再び立ち上がった。
――未来を託すために。




