第14章 第1話 戦火の大陸
北境の戦いを終え、私たちは荒野を離れ、王都へ戻る道を歩いていた。
しかし、帰路で目にしたのは安堵ではなく、さらに深い絶望だった。
村は荒れ果て、街道には疲弊した避難民の列が続いている。
痩せた子どもが母の腕に抱かれ、空の器を差し出して泣いていた。
老人は歩けず、その場に座り込み、静かに空を見上げている。
マリアが震える声で呟いた。
「……戦いが終わったはずなのに、誰も救われてない」
私は頷いた。
「戦は北方だけじゃない。大陸全土が燃えている」
王都近郊に到着すると、急報が次々と舞い込んだ。
「東の都市同盟が互いを攻め合い、同盟は崩壊しました!」
「西の交易路は断たれ、飢えで街が暴動に!」
「南では再び瘴気が溢れ、村が消えたとのこと!」
報せを運ぶ兵士たちの顔は疲れ果て、希望の色はなかった。
王国は既に軍も財も尽き、もはや各地の火種を抑える力は残っていない。
ラシードが唸る。
「これじゃ……大陸全部が死に場所になっちまう」
王宮の広間に残った貴族や重臣たちは、相変わらず互いの責任を押し付け合っていた。
「東を優先せねば!」
「いや、西を放置すれば飢饉が拡大する!」
「北の守りを固めねば、異民族が再び来るぞ!」
彼らは声を荒げるばかりで、誰一人として剣を取ろうとしない。
ライラが冷笑する。
「この国はもう、骨まで腐ってるわね」
私は黙って立ち尽くした。
守るべき国は既に崩れ、残されたのは“燃え続ける大陸”だけだった。
その夜、私たちは廃墟となった街の片隅で焚き火を囲んでいた。
沈黙が続いた後、マリアが拳を握りしめ、涙を浮かべて言った。
「……わたし、もう国とか反乱とかどうでもいい。
ただ、人を守りたい。苦しむ人を……これ以上、見捨てたくない」
ラシードは深く息を吐き、剣を背負い直した。
「俺も同じだ。どこの旗が立ってようが関係ねぇ。守るべきは、人だ」
ライラは火を見つめ、かすかに笑った。
「結局、信じられるのは私たち自身ってことね。なら……最後まで付き合う」
私は仲間を見渡し、静かに言った。
「大陸が燃え尽きても、未来は必ず残す。
――それが、私たちの戦いだ」
翌朝、鐘の音が響いた。
王都の広場に兵士が駆け込み、声を張り上げる。
「報せ! 大陸中央の都市が炎に包まれ、壊滅しました!
生き残った者はほとんどおらず……書架院の旗が翻っていたと!」
広場にざわめきが走る。
大陸全土の戦乱が、ついに一つの炎となって燃え広がった瞬間だった。
私は杖を握りしめ、胸の奥で再び誓った。
「ここからが本当の戦いだ。誰にも、この大地を奪わせはしない」




