第13章 第5話 絶望の夜襲
夜。砦を取り巻く炎は一時鎮まり、闇が訪れていた。
だがその静けさは嵐の前の予兆にすぎなかった。
月明かりの下、闇の中から矢が飛び、兵が倒れる。
「夜襲だ!」
怒号が響いた瞬間、砦の内外から悲鳴が上がる。
敵は火を使わず、影のように忍び込み、兵を一人ずつ斬り伏せていった。
私は杖を構え、光の魔法で周囲を照らした。
その光に浮かび上がったのは、異民族の戦士だけではなかった。
――黒衣の術師たちが、裏切り者の兵と共に砦へ侵入してきていた。
矢の雨の中で陣形は崩れ、私たちは四散した。
ラシードは北門へ、ライラは西側へ。
そしてマリアは、敵に追われて南の塔へと駆け込んでいた。
「マリア!」
私は叫んだが、敵兵が割って入り、彼女の姿が見えなくなった。
胸に冷たいものが走る。
――マリアが、孤立した。
南の塔の上、マリアは背を壁に預け、震える手で杖を握っていた。
黒衣の術師が数人、冷たい声で囁く。
「光を掲げる娘よ。貴様の力は我らが望む器だ」
「ここで捕らえ、我らの術に組み込む」
マリアは必死に光の結界を張った。
だが矢の一本が結界を貫き、肩をかすめた。
「きゃっ……!」
痛みと恐怖に涙が溢れる。
私は塔へ駆け込み、崩れた階段を駆け上がった。
敵が振り返るより早く、杖を振り下ろす。
「アクア・バースト!」
水の奔流が術師たちを吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
光の破片が舞い散り、塔の上が一瞬だけ静寂に包まれる。
「マリア!」
彼女は血に濡れた肩を押さえ、震える声で答えた。
「リディア……遅いよ……」
「絶対に、守る。ここでお前を失わせはしない」
私は彼女を抱き寄せ、立ち上がった。
その瞬間、塔の外から炎が爆ぜ、影が飛び込んできた。
西の壁を越えて現れたのは、裏切り者の将だった。
かつてライラと同じ暗殺組織に属していた男。
「ライラ……やはり生きていたか」
「……お前とは決着をつけなきゃならないと思ってた」
二人の影が炎の中でぶつかる。
鋭い刃が交錯し、火花が散る。
ライラの短剣が閃き、男の胸を貫いた。
彼女は荒い息を吐きながら呟いた。
「もう……過去には縛られない」
その背中を見て、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。
夜襲は続いていたが、仲間たちは再び集まった。
ラシードが血に濡れた盾を投げ捨て、叫ぶ。
「くそっ、まだ来るぞ!」
私はマリアを支えながら頷いた。
「それでも立つんだ。私たちが守らなきゃ、ここで全てが終わる」
炎と闇に包まれた砦で、私たちは肩を並べた。
絶望の夜はまだ続く。
だがその中心に、確かな絆の炎が灯っていた。




