第13章 第4話 炎の包囲網
サルハ率いる部族が荒野を進軍する中、王国軍の残兵が迎え撃とうとしていた。
だが兵の多くは疲弊し、士気も低い。
その隙を突くように、両陣営の間に黒衣の術師が姿を現した。
書架院――。
彼らは両者に異なる言葉を囁いた。
「王国軍よ、奴らは獣だ。民を虐げ、村を焼く蛮族だ。今こそ滅ぼせ」
「部族よ、王国はお前たちの祖を殺し、大地を奪った。炎で報いよ」
その声は魔術で増幅され、兵の心に直接染み込む。
憎悪が膨れ上がり、互いを殺す衝動へと変わっていった。
北境の要塞。
石壁に囲まれた砦は、すでに火矢に包まれていた。
城壁の上で兵士が必死に応戦するが、矢は尽き、食料も尽きかけている。
私たちが駆けつけたとき、砦の外周は炎に囲まれていた。
部族の戦士たちが雄叫びを上げ、太鼓が荒野を震わせる。
要塞はまるで炎の渦に閉じ込められたようだった。
「……まるで地獄だ」
ラシードが呟く。
マリアは祈るように手を握りしめ、涙をこらえた。
「ここに残ってる人たち……全員、焼き殺されちゃう……!」
そのとき、砦の内側から旗が翻った。
それは王国の紋章ではなく、白地に黒い紋――書架院の印だった。
「なっ……!」
ライラが目を見開く。
砦の指揮官が裏切り、書架院に与していたのだ。
彼の声が響く。
「王国は終わった! 生き延びたければ新しい秩序に従え!」
砦の兵の半数が武器を捨て、敵へと寝返っていく。
残された兵は絶望の表情で敵に囲まれた。
「裏切りまで……これじゃ、どうすれば……!」
マリアが震える声をあげた。
私は仲間を振り返る。
ラシードは怒りに剣を握り、ライラは苦々しい顔で短剣を構えている。
誰も退く気はなかった。
「孤立無援だな」
ラシードが吐き捨てる。
私は深く息を吸い、決意を込めて言った。
「それでも……守る。たとえ全ての兵が裏切っても、私たちだけは」
その瞬間、砦の周囲で角笛が鳴り響き、炎の包囲が狭まってきた。
夜空に赤い光が広がり、まるで大地そのものが燃えているようだった。
敵の軍勢が迫り、槍と矢が闇を裂いた。
砦は崩れ落ちる寸前、そして私たちは完全に孤立していた。
だが、退く場所などなかった。
「立て! ここで踏みとどまる!」
私は杖を掲げ、仲間と共に炎の渦へと飛び込んだ。
――それは、まさに絶望の中での戦いの始まりだった。




