第13章 第3話 異民族の指導者
翌朝、私たちは北方の荒野を進んでいた。
夜の焚き火の匂いがまだ漂い、灰にまみれた村が次々と目に入る。
風は乾き、空は重く曇っていた。
そのとき、丘の上に一人の影が立った。
赤い戦化粧を施し、銀の胸甲をまとった女戦士。
長い黒髪を風に靡かせ、冷ややかな眼差しをこちらに注いでいた。
彼女の背後には数百の兵が控えている。
しかし彼女自身は堂々と前に進み、我らとの距離を縮めてきた。
「お前が……この地を荒らす指導者か」
ラシードが剣を抜き、低く唸った。
女戦士は槍を肩に担ぎ、鋭い声で答えた。
「私は〈炎の鷲〉の部族長、サルハ。
我らは奪いに来たのではない。取り返しに来たのだ」
マリアが驚きに目を見開いた。
「取り返す……?」
サルハは槍の穂先を地に突き立て、声を張り上げる。
「数百年前、我らの大地は王国に奪われ、森を焼かれ、民を奴隷にされた。
飢えに耐えきれず、幾度も南へ降りたが、そのたびに血で追い返された。
だから今こそ、我らは大地を奪い返す!」
その言葉に兵たちが鬨の声を上げた。
荒野に響く叫びは、憎悪だけでなく誇りに満ちていた。
ライラは短剣を握りながら呟いた。
「……彼らも“奪われた側”だったのね」
サルハはさらに言葉を続ける。
「王国は腐り果て、民を見捨てた。
反乱軍すら書架院に操られている。
英雄よ――貴様らが守ろうとしているものは、既に死んでいる!」
私は言葉を失った。
確かに王都で見たのは、腐敗と炎だけだった。
サルハの声には、理があった。
マリアが震える声を上げる。
「でも……村を焼いて、子どもまで殺していいはずがない!」
サルハの眼が鋭く光った。
「血なくして奪われたものは取り戻せぬ。
お前たちが守ろうとする“秩序”こそ、我らを虐げてきた鎖だ」
私は杖を握り締めた。
――彼女の言葉は残酷だが、真実でもあった。
正義は一つではない。
そして、どちらにも血が流れる。
サルハは槍を持ち上げ、鋭くこちらを指した。
「英雄よ、道を譲れ。我らの進軍を妨げるなら、貴様らも敵だ」
ラシードが剣を構え、低く唸る。
「上等だ……!」
ライラは目を細め、マリアは必死に首を振った。
私は息を呑み、心の奥で自らに問いかけた。
――彼女を倒すのか、それとも……理解しようとすべきか。
答えの出ないまま、緊張の糸が張り詰めていった。




