第12章 第6話 英雄の選択
炎に包まれた王都は、地獄そのものだった。
宮殿の塔が崩れ落ち、石畳は血に濡れ、泣き叫ぶ声が夜空に響く。
反乱軍は勝利に酔い、略奪と殺戮に走っていた。
だが王国軍もまた、命乞いする市民を敵とみなし、無慈悲に刃を振るっていた。
「裏切り者を斬れ!」
「逃げる者は皆、反乱軍の手先だ!」
正義を語る者はどこにもいなかった。
国も、反乱軍も、血に染まり、ただ破滅へと進んでいた。
広場で立ち尽くす私たちの周りを、炎と悲鳴が取り巻いた。
ラシードが怒りに拳を震わせる。
「もう両方とも腐ってる! 誰を守ればいいんだ!」
ライラは血塗れの短剣を握りしめ、苦々しく吐き捨てた。
「結局、人を利用してるだけ。国も反乱軍も同じ」
マリアは涙を流しながら叫んだ。
「違う! 守る人はまだいる!
広場で泣いてる子どもたち、必死に家を守ろうとするお母さん、
そういう人たちを……見捨てちゃだめ!」
私は深く息を吸い込み、炎の赤に染まる空を見上げた。
胸に響く問い――「国か反乱軍か」。
だが、答えは既に見えていた。
「私は……国も、反乱軍も選ばない」
仲間たちが私を見つめる。
「未来を託すのは、旗や権力じゃない。
人そのものに託す。生きたいと願う人々に」
その言葉に、マリアが強く頷いた。
「……うん! それなら、わたしも一緒に守る!」
ラシードは拳を下ろし、深く息を吐いた。
「……ったく。お前らの言うことは青臭いが、俺も嫌いじゃねぇ」
ライラは短く笑い、炎に照らされて影を揺らした。
「信じる方を選ぶ……悪くないわね」
私たちは武器を握り直し、逃げ惑う人々を守るために走り出した。
瓦礫の下から子どもを救い、炎に包まれた家から老人を抱き出す。
剣や魔法は、敵を倒すためではなく、守るために振るわれた。
書架院の術師が遠くから私たちを見下ろし、不気味に笑っていた。
「……愚かな選択だ。だが、その愚かさこそ未来を変えるかもしれんな」
夜が明ける頃、王都は半ば焼け落ちていた。
反乱軍は一時的に退き、王国も力を失い、街には虚ろな沈黙が漂った。
その時、北方から急報が届いた。
「北境で戦乱が勃発! 異民族の軍勢が侵攻中!」
私たちは互いに視線を交わした。
大陸は、さらに深い混沌へと落ちていく――。
「行こう。北方へ」
私の言葉に、仲間たちは頷いた。
英雄の選択は終わり、新たな戦乱が始まろうとしていた。




