第11章 第3話 封印の守護者
翌朝、村人の案内で黒き神殿へ続く山道を登っていた。
風は瘴気を含み、喉に苦い味を残す。
岩肌は黒ずみ、草木は枯れ果て、鳥の影すら見えなかった。
突如、岩陰から矢が飛んだ。
私の前に立ったラシードが盾でそれを弾く。
「待ち伏せか!」
次の瞬間、黒い衣を纏った一団が姿を現した。
褐色の肌に古代文字の刺青を刻み、鋭い眼差しをこちらに向けている。
「ここから先は神域。外の者に踏み荒らさせはせぬ」
彼らは“封印の守護者”と呼ばれる一族だった。
古代から神殿を監視し続け、封印を守るためだけに生きてきた者たち。
族長と思しき壮年の男が、長弓を構えたまま言った。
「封印が揺らぐのは事実。だが外の者の介入は、さらなる破滅を招く」
彼の声は岩のように硬く、揺らぎがなかった。
私は一歩前に出て告げた。
「私たちは破滅を望んでいない。封印を守るために来た」
「言葉は誰でも飾れる。
お前たちが守る者か、壊す者か――試させてもらう」
守護者の若者たちが石槍を構え、輪を作るように取り囲んだ。
空気は張り詰め、マリアが息を呑む。
族長が低く言う。
「我らの問いに答えろ。
人を守るために封印を壊すか、封印を守るために人を犠牲にするか。
お前たちはどちらを選ぶ?」
重い問いだった。
私は答えを探したが、言葉が喉に詰まった。
その時、マリアが一歩前に出た。
「……わたしは、どっちも選ばない」
震える声だったが、瞳は真っ直ぐだった。
「人も、封印も、両方守る方法を探す。
壊すか守るかなんて、そんな二つしかないなんておかしいよ。
だって人を守るための封印なんでしょう?
なら人を犠牲にしちゃ意味がない!」
守護者たちがざわめく。
族長の眉がわずかに動いた。
長い沈黙の後、族長は矢を下ろした。
「……愚かで、幼い言葉だ。だが、その愚かさが封印を繋いできたのかもしれぬ」
彼は仲間に合図をし、輪が解かれた。
「よかろう。お前たちを神殿へ通す。ただし、監視は続ける」
マリアは胸を押さえ、安堵の息をついた。
私は彼女の肩に手を置き、静かに微笑んだ。
「よく言った。あなたの言葉が道を開いた」
一行は守護者に導かれ、山のさらに奥へと進む。
やがて黒き神殿の影が姿を現した。
岩を削り出した巨石の神殿。
その門からは絶え間なく瘴気が溢れ、空気を震わせている。
マリアの表情が引き締まった。
「……ここからが、本当の試練だね」
黒き神殿は、静かに彼らを待ち受けていた。




