第11章 第2話 黒き神殿の村
黒き神殿を臨む山の麓に、ひっそりと小さな村があった。
石を積んだ家々は崩れかけ、畑は枯れ、井戸の水は濁っていた。
村に足を踏み入れると、どこからともなく咳き込みや呻き声が響いてきた。
子どもが母の腕に抱かれ、痩せた顔で苦しそうに息をしている。
老人は床に伏せ、皮膚に黒い斑点を浮かべていた。
村全体が病に蝕まれているのは一目でわかった。
「……これが、封印の瘴気」
私は呟き、胸に冷たいものを感じた。
族長らしき老人が現れ、弱々しい声で言った。
「旅の者よ、ここへ来る者は久しい……。
神殿から黒き風が吹き始めてから、我らの村は日に日に衰えている。
病は癒えず、薬も効かぬ」
マリアが一歩前に出て、真剣な顔で告げた。
「わたし、治療してみます!」
村人たちは驚いたように顔を上げ、細い希望をその瞳に宿した。
マリアは病に伏す子どもの額に手を当て、呪文を唱え始めた。
「ヒール・ライト――」
光が彼女の掌から広がり、子どもの身体を包む。
しばらくすると苦しげな呼吸が和らいだように見え、母親が涙を浮かべた。
だが、次の瞬間、子どもの体が震え、皮膚の黒い斑点が広がった。
光が瘴気に弾かれ、逆に病を刺激したのだ。
「……だめ!? なんで……」
マリアの声が震え、光が掻き消える。
子どもは再び苦しそうに咳き込み、母親が必死に抱きしめた。
その様子を見た村人たちの顔に、再び影が落ちた。
「やはり……神殿の呪いには抗えぬのだ」
「封印が破れる前に、この村は消える……」
絶望の言葉が広がり、マリアは拳を握り締めた。
「違う! 必ず……必ず治せる方法があるはず!」
涙を滲ませながら叫ぶ彼女に、村人たちは沈黙で応じた。
私は彼女の肩に手を置き、静かに言った。
「これはあなたのせいじゃない。瘴気が光そのものを拒んでいる。
――つまり、ただの病ではなく、封印そのものが歪んでいるんだ」
夜、村の外れから黒き神殿を見上げると、山の斜面から煙のような瘴気が立ち上っていた。
月明かりに照らされたその黒は、空を汚し、星すら覆い隠す。
ライラが低く言った。
「まるで、大地が腐ってるみたいね」
ラシードは眉をひそめ、険しい声を出した。
「これ以上放置すれば、この村だけじゃなく周辺一帯が呑まれる」
マリアは黒い空を見上げ、強く唇を噛んだ。
「……絶対に止める。どんなに怖くても」
その言葉は震えていたが、同時に確かな光を宿していた。




