第1章 第6話 王都からの影
あの夜から数日が過ぎた。
村は門を修理し、見張り台を作り始めている。
マリアは毎朝私のところへ来て、魔力制御の訓練を続けていた。
「リディア、見て! 昨日より強くなったでしょ?」
マリアが指先に光を灯す。
小さな火の玉がふわりと浮かび、風に消えた。
「ええ、だいぶ形になってきたわね。次はもう少し安定させましょう」
笑い合ったそのとき、村の入り口で馬のいななきが響いた。
見張り台から声が上がる。
「旅人だ! ……いや、誰かを探しているようだ!」
私は杖を手にして門へ向かった。
そこにいたのは、王都の紋章を掲げた馬車。
降りてきたのは、見覚えのある顔だった。
「……リディア様!」
王太子の妹、王女セシリアだった。
旅装に身を包み、頬はやつれている。
こんな辺境まで来るなど尋常ではない。
「セシリア殿下……どうしてここに?」
「お願い、少し話を聞いて。王都が――危ないの」
村の集会所で、セシリアは深く頭を下げた。
「父上はもう病に伏していて、宮廷は腐敗しきっているわ。
王太子殿下は……お兄様は、宰相に操られている。
あの断罪も、すべて宰相の仕組んだ罠だったの」
胸の奥が冷たくなる。
――罠。やはりそうだったのか。
「今、王都では反乱の噂が広まっている。
このままでは、国が崩れる……」
セシリアの瞳は真剣だった。
「リディア様、どうか力を貸して。あなたしか頼れる人はいないの」
私はしばらく黙っていた。
あの日の記憶が蘇る。
冷たい玉座、婚約破棄の言葉、誰も庇わなかったあの光景。
「……どうして私が王都を救わなきゃいけないの?
私を追放したのは、他でもない王都よ」
「わかってる……でも、このままでは民が苦しむの」
セシリアの声が震える。
その肩にマリアがそっと手を置いた。
「リディア、助けてあげようよ。
あのときわたしを助けてくれたみたいに」
私はマリアの顔を見た。
彼女は真っ直ぐに私を見つめている。
――私がどうするか、決めなきゃいけない。
「……考える時間がほしいわ」
セシリアは頷き、しばらく村に滞在することになった。
外はもう夜。
私は焚き火の前に座り、杖を握りしめる。
復讐か、救済か。
心の中で二つの声がぶつかり合う。
あの日の怒りはまだ消えていない。
でも、マリアの瞳がその怒りを少し和らげる。
「……決めなくちゃね。
私の戦い方を」
星空の下、私は一人、静かに誓った。




