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追放された元宮廷魔術師、辺境で育てた弟子と共に王都を滅ぼすか救うか選ぶことになる  作者: マルコ


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第9章 第6話 東方決戦・後篇

 戦場は混沌の極みにあった。

 王国軍の陣は崩れかけ、東方兵の鎧は術式の光で異様に強化されている。

 ライラとラシードは孤立したまま敵を斬り払い、マリアは必死に結界を張り続けていた。


 私は砦の上からその光景を見下ろし、胸に怒りが満ちるのを感じた。

「……このままでは、全員が呑まれる」


 杖を天に掲げ、深く息を吸い込む。

 大地と空の魔力を編み合わせ、全身に重みを背負うような感覚が押し寄せた。


「――エレメンタル・ストーム!」


 空が裂けた。

 水と風が渦を巻き、雷鳴が轟き、大地が震えた。

 暴風が戦場を駆け抜け、炎を消し、砂塵を吹き飛ばす。

 水の槍が鎧を打ち、雷が術式を焼き切る。


 一瞬にして戦場は静寂に包まれた。

 兵たちは武器を落とし、恐怖と驚きで後退した。


 しかし、完全には鎮まらない。

 ――黒杖を掲げる術師が立っていた。

 書架院の男は渦の中心に立ち、冷ややかに呟いた。


「学習――完了」


 鎧の光が再び変質し、今度は雷を吸収して淡い光を放った。

 術式が私の魔法を取り込み、兵士の力へと変えている。


「……魔術そのものを喰らう気か」

 私は奥歯を噛み締めた。


 書架院の術師が黒杖を振ると、幾何学模様の光陣が戦場に展開した。

 兵士たちの動きが一斉に揃い、まるで一つの巨大な生物のように隊列を組む。


 私は即座に詠唱を切り替える。

「アース・バインド!」

 地面から無数の鎖が伸び、兵士たちの足を絡め取った。


 だが術師は冷笑を浮かべ、呪文を唱える。

「適応、応用」

 鎧の模様が変形し、鎖が崩れ落ちた。


「……なるほど。こちらが攻めるたびに、術を組み替えてくる」

 私は背筋に冷たいものを感じながらも、杖を構え直した。

 勝てるかどうかではない。今、ここで止めなければ。


 その時、戦場にカイエンが駆け込んできた。

 彼は馬上で剣を掲げ、兵を鼓舞しながら叫ぶ。

「立ち上がれ! 腐敗した王国を打ち倒すために!」


 兵士たちの目が再び光を帯び、士気が一気に高まった。

 理想と術式、両方で兵を動かすその姿は、脅威であると同時に魅力的ですらあった。


 私は彼に向かって声を張り上げた。

「カイエン! あなたの理想は人を守るはずだ! なのに今は、民を犠牲にしている!」


「犠牲なくして変革はない!」

 彼の瞳は燃えていた。

「腐敗を砕くために血が必要なら、私は剣を取る!」


「私は違う! 守るために戦う! 犠牲を当然とするなら、あなたは黒帆と同じだ!」


 その言葉に、カイエンの顔がわずかに歪んだ。

 ――一瞬の迷い。しかし彼は剣を下ろさなかった。


 その時、遠方から新たな号令が響いた。

 東方軍が後退を始める。

 どうやら書架院の術師たちが撤退を決めたらしい。


 カイエンは唇を噛み、私を睨みつけながら叫んだ。

「リディア! 次に会うときこそ、決着をつける!」


 彼は兵を率いて去っていった。

 戦場には死体と煙だけが残された。


 夕暮れ、砦に戻った私たちは疲労困憊だった。

 マリアは結界で多くの命を守り抜き、力尽きたように眠り込んでいる。

 ライラとラシードも傷だらけで、しかし生き延びていた。


 私は夜空を仰ぎ、深く息を吐いた。

「……これが始まりに過ぎないのなら、大陸は本当に裂けてしまう」


 頭の中に焼きついているのは、カイエンの瞳と書架院の術式。

 理想と禁忌が絡み合い、戦乱をさらに広げていく。


 ――大陸を守るための戦いは、ここからが本番なのだ。

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