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追放された元宮廷魔術師、辺境で育てた弟子と共に王都を滅ぼすか救うか選ぶことになる  作者: マルコ


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第8章 第4話 裂けゆく大陸

 北方都市の議場は、大理石の柱と彩色された天井画で飾られ、夜にもかかわらず煌々と灯りが焚かれていた。

 民衆の視線を避けるための深夜の会合――それ自体が、不穏を物語っている。


 壇上には特使ハロルドが立ち、背後に数名の従者と兵士を従えていた。

 彼の笑みは変わらず穏やかだが、目はまるで私を切り分ける刃物のようだった。


「リディア殿、マリア殿。ようこそ。

 ご安心を。ここは安全です。あなたがたを“保護”するために整えました」


 保護――その響きに私は内心で苦笑した。

 檻に入れられる獣も、きっとこうして“保護された”と呼ばれるのだろう。


「私は自由に戦ってきました。誰かに囲われるためではありません」

「自由は素晴らしい。しかし、自由は時に民を惑わせます。

 あなたがたが英雄として崇められることは、王国にとって脅威にもなり得る」


 ハロルドの声は、甘くも鋭い。

 マリアが立ち上がり、杖を握りしめた。

「脅威? リディアは人々を守ったのに!」


「守った……ええ。しかし英雄は時に、人々を扇動する火種にもなる。

 だからこそ王都の庇護下に置く。それが最善なのです」


 議場に漂う緊張は、剣を抜く寸前のように張り詰めていた。


 一方その頃、ライラとラシードは都市の裏通りを歩いていた。

 石畳に水たまりが光り、ランタンの影が揺らぐ。

 案内役はラシードの古い知人――書記を装った情報屋だった。


「書架院の者たちは、“写本ギルド”を通じて出入りしているらしい」

「禁書の複製を売る連中だな」ライラが鼻で笑う。

「そうだ。彼らは書を商うが、実際は術式の実験台を集めている」


 薄暗い地下室に潜ると、壁に貼られた地図に目が留まった。

 大陸全域を描いた羊皮紙。その上に赤い印がいくつも刻まれている。


「……これは」

 ラシードが声を潜める。

 印は東方、西方、南方――そして王国の近辺にまで広がっていた。


「大陸中で動乱が……?」

「黒帆の影に紛れて、書架院が根を張っている」


 ライラは短剣の柄を握りしめた。

「リディアに報せなきゃ。これは、砦どころの話じゃない」


 議場では、ハロルドが大きな羊皮紙を広げていた。

 そこに描かれたのは、まさにライラたちが地下で見たものと同じ地図。

 彼は指先で各地を示しながら淡々と語った。


「東方では新興国家が軍備を拡張し、王国の東境を脅かしている。

 西方では交易路を巡る争いが絶えず、商会同士の血が流れている。

 南方では……古き伝承に語られる“魔族の封印”が揺らいでいるとの報せもある」


 ざわ、と議場の空気が揺れた。

 ハロルドは視線を私に向ける。


「あなたが砦を落としたことで、大陸の均衡は崩れたのです。

 英雄が生まれれば、必ず争いは加速する。だからこそ王国の旗の下で戦っていただく」


 私は地図に目を落とした。赤い印は、確かに燃え広がる炎のように大陸を覆っていた。

 だが、その広がり方には――どこか、意図的な均衡がある。


「これは……偶然じゃない」

「え?」マリアが覗き込む。

「誰かが火種を撒いている。東西南北すべてに」


 胸の奥で、先ほどの刺客の言葉がよみがえる。

 ――“書架院”。


 議場の外に戻ったとき、夜空は鈍い雲に覆われていた。

 マリアが不安げに呟く。

「大陸全体が……崩れていくの?」


「いいえ。まだ崩れてはいない。でも裂け目は走っている」

 私は夜風に髪をなびかせ、胸の奥で誓った。

「その裂け目を繋ぎ止めなければ、この大陸は本当に壊れる」


 遠く、鐘の音が鳴り響いた。

 それは夜を告げる鐘ではなく、嵐の前触れを告げる警鐘のように響いていた。

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