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追放された元宮廷魔術師、辺境で育てた弟子と共に王都を滅ぼすか救うか選ぶことになる  作者: マルコ


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第8章 第1話 戦火の余波

 黒砂の砦が炎に包まれて崩れ落ちてから、まだ数日しか経っていなかった。

 だが、その報せは砂漠を越え、山脈を越え、信じられぬ速さで大陸中へ広がっていた。

 北方都市に足を踏み入れたその瞬間、私は人々の視線がこちらに集まるのを感じた。


「見ろ、あれが砦を落とした魔術師だ」

「黒帆を退けた英雄だって……!」

「いや、首領のザハルはまだ生きてるらしいぞ」


 喜びと畏怖、希望と疑念。

 さまざまな声が交じり合い、街の喧騒はひどくざわめいていた。


 石畳の広場に立つと、群衆が集まり、私とマリアを指差した。

「リディア様! リディア様だ!」

「弟子の娘も一緒だ! 若き英雄だ!」


 突然、拍手が起こり、やがて歓声の渦となる。

 私は胸の奥がくすぐったくなるのを覚えた。

 かつて宮廷を追われ、追放のように辺境へと向かった私が、今は英雄と呼ばれている――。


「リ、リディア……これ、どうしよう」

 マリアが顔を真っ赤にして、私の袖をぎゅっと握る。

「わ、わたしたち、ほんとに英雄って呼ばれてる……」


 私は苦笑して小さく囁いた。

「嬉しいけれど……浮かれすぎちゃだめよ」


 その言葉の直後、背後から別の声が聞こえた。

「英雄? 笑わせる。街を戦火に巻き込んだ張本人だろう」

「強すぎる魔術師は、王国の秩序を壊す」


 群衆の中には冷たい目もあった。

 英雄は一歩間違えれば、すぐに“脅威”と呼ばれる。

 ライラの言葉が脳裏によみがえる――「権力者にとって英雄は危険視されるものだ」と。


 数日、私たちは北方都市に滞在することになった。

 砦から解放された囚われ人たちもここへ運ばれ、街は一時的に避難民で溢れていた。


 広場の片隅で、マリアが子どもたちに魔術を教えていた。

「いい? 風は目に見えないけど、心で感じられるの。ほら、手を広げて……」

 子どもたちが笑いながら手をかざすと、マリアは小さな風の渦を生み出した。

「わあっ!」

 歓声と拍手が広がり、子どもたちの顔がぱっと明るくなる。


 その光景を眺めながら、私は思った。

 ――マリアはもう、守られるだけの存在じゃない。

 人に笑顔を与え、希望を示せる存在になっている。


 一方で、ラシードは市場を歩き、解放された人々の生活を手伝っていた。

 彼の眼差しにはまだ復讐の炎が揺れていたが、同時に仲間を守ろうとする強さも宿り始めていた。


 夕暮れ、都市の議場に招かれ、長老や商人たちの前に立たされた。

「砦を崩したのは見事だ。だが……貴様の力は強すぎる」

「王国の特使が近くまで来ている。お前を王都に呼び戻すだろう」

 長老たちの言葉は感謝と同時に警戒に満ちていた。


「……英雄と持ち上げておいて、すぐに縛り付けるつもりか」

 ライラが小声で吐き捨てる。


 私は微笑を浮かべつつも、心は重く沈んだ。

 守りたいのは王国そのものではなく、人々の暮らしだ。

 だが王都へ戻れば、再び権力の駒にされるかもしれない。


 その夜、宿に戻ったとき、マリアは私の手を握りしめて言った。

「ねえ、リディア。もし王国に呼び戻されたら……行くの?」


 私は少しだけ考え、答えた。

「……人々を守るためなら、どこへでも行く。でも、利用されるために戻るつもりはない」


 マリアは真剣な瞳で見つめ返した。

「わたしも一緒に戦う。だから、どんな道を選んでも隣にいる」

 その言葉に、胸の奥の迷いが少しだけ晴れていった。


 だが同じ夜、宿の外では別の影が動いていた。

 黒い衣に身を包み、屋根の上を静かに走る者たち。

 月光に照らされた短剣が、冷たく鈍く光った。


「英雄リディア……その名を消すまでだ」

 低い声が闇に溶け、北方都市の夜は再び静寂に沈んだ。

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