第7章 第2話 潜入と裏切り
夜更け、月は雲に隠れ、砂漠は闇に沈んでいた。
私たちはラシードの案内で、砦の北側へと回り込む。
そこには、かつて水を引くために掘られた古い地下道の入り口があった。
「見張りはいない……今なら行ける」
ラシードが松明を消し、手振りで先導する。
私たちは順に石段を下り、冷たい空気の漂う地下道へ入った。
湿った匂いが漂う細い通路を進む。
壁に手を触れると、ざらついた砂と苔が指に残った。
マリアは不安げに呟く。
「ほんとに……ここから入れるの?」
「昔は交易人が密かに使っていた抜け道だ。今は誰も知らない」
ラシードはそう言ったが、声はわずかに硬かった。
通路を抜けた先は、砦の内部に続く倉庫だった。
崩れかけた棚や木箱が散乱している。
私たちは息を殺し、物陰に身を潜めた。
だが――。
「誰だ!」
鋭い声が響き、松明が掲げられる。
数人の黒帆兵が現れ、倉庫を取り囲んだ。
「なっ……!」
ライラが剣を抜く。
マリアが結界を展開し、火矢を弾いた。
「……やはり通報されていたか」
私はラシードを振り返った。
彼は目を見開き、必死に首を振った。
「違う! 俺じゃない!」
黒帆兵の一人が嗤った。
「裏切り者の中に、さらに裏切り者がいたのさ」
別の案内役として同行していた男――街で接触した反抗者のひとりが、兵の後ろに立っていた。
奴は私たちを見て、不敵に笑った。
「金のためなら、仲間を売るのも悪くない」
「……卑劣な」
私は杖を構え、雷を走らせた。
閃光が倉庫を照らし、数人の兵を倒す。
ラシードは怒りに燃え、短剣で裏切り者に飛びかかった。
「裏切り者はお前だ!」
刃が交わり、火花が散る。
だが数で勝る敵に押され、私たちは広間へと追い立てられていった。
砦の中心部――高い天井に松明が並び、石床に兵が整列している。
そこは、明らかに待ち構えられた舞台だった。
「……罠だったのね」
私は息を吐き、杖を握り直した。
広間の奥、豪奢な椅子が置かれた壇上。
そこに誰かが現れる気配があった。
不穏な沈黙の中、私は覚悟を固めた。
次に姿を見せるのは――黒帆の首領、ザハル。




