第6章 第4話 北方の都市にて
長い砂漠の行軍を越えた先に、ようやく街の灯りが見えた。
北方の交易都市――かつては大陸の南北を結ぶ要衝として栄えた場所だと聞いていた。
だが、門をくぐった瞬間、私は違和感を覚えた。
通りには人々がいるものの、笑い声がない。
屋台は並んでいるが、半分以上は閉じられたまま。
開いている店からは警戒するような視線が投げかけられた。
「活気がない……」
マリアが不安げに呟く。
「ここも黒帆の影響下にあるのね」
ライラの声は冷たかった。
広場の井戸の周囲では、痩せた子どもたちが水を汲んでいた。
その背後で、黒い腕章を巻いた男たちが見張りのように立っている。
水を汲む順番を金で売り、逆らう者には殴打を加えていた。
「ひどい……!」
マリアが立ち上がろうとしたが、私は腕を掴んだ。
「今は動くな。敵を炙り出すのは、時が来てから」
彼女は悔しそうに唇を噛み、杖を握りしめた。
私たちは宿屋に身を寄せ、市場に出て情報を探った。
果物売りの老人が小声で教えてくれた。
「黒帆の連中は、街の北にある砦を拠点にしてる。
“黒砂の砦”と呼ばれてな……。あそこから奴らは隊商を襲い、
水路を支配し、街を締め上げてるんだ」
「黒砂の砦……」
私はその名を繰り返した。
まるで砂漠そのものが牙をむいたかのような響きだ。
夜、宿の窓から街を見下ろすと、闇に紛れて人影が動いていた。
人々が列を作り、黒帆の兵に物資を差し出している。
抵抗する声はなく、沈黙だけが支配していた。
「みんな、恐れてる……」
マリアが呟く。
「恐怖で支配されてるのよ。だから私たちが、ここで立ち上がらなきゃ」
私は杖を握り、強い決意を胸に刻んだ。
次の目的地は――黒砂の砦。




