第6章 第3話 黒帆の追跡者
遊牧民の村を発って三日、砂漠の夜道を進んでいたときだった。
風が止み、あたりの砂が不自然に静まり返る。
私は杖を握り直し、低く呟いた。
「……気配がする」
次の瞬間、砂丘の影から黒装束の男たちが飛び出した。
顔を布で覆い、二本の曲刀を構えている。
黒帆の刺客――ザハルの命を受けた追跡者たちだ。
「生け捕りにしろ!」
低い声が響き、十人以上の影が迫る。
「リディア、どうする!?」
マリアが杖を構える。
「戦うわ。ここで逃げれば、追撃は終わらない!」
私は詠唱を唱え、雷を走らせた。
「ライトニング・ボルト!」
眩い閃光が夜を裂き、数人の刺客が砂の上に倒れ込む。
だが残りは動じず、影のように間合いを詰めてきた。
ライラが短剣を抜き、斬り結ぶ。
カリムが槍を振るい、敵を押し返す。
その隙に、マリアが叫んだ。
「アイス・スパイク!」
砂の水分を瞬時に凍らせ、鋭い氷柱が突き出す。
刺客の一人が足を取られ、砂上に崩れた。
「ナイス!」
私は雷槍を放ち、敵をさらに退けた。
しかし、一際大柄な刺客が前に出た。
全身を黒布で覆い、背中にはザハルの印が刻まれている。
その目は獣のように光っていた。
「ザハル様は言った。
お前を生かしたまま連れて来い。
……世界を壊すために」
「世界を……?」
私は一瞬言葉を失った。
「王国だけじゃない。大陸すべてを混乱に沈め、新たな秩序を作る。
それが俺たち黒帆の使命だ!」
その声と同時に、曲刀が閃いた。
私は杖で受け、火花を散らす。
砂が舞い、夜空の星が揺らぐ。
「そんなもの……ただの破壊よ!」
「だが、それが新しい未来だ!」
刃と杖がぶつかり合い、衝撃が走る。
私は雷を纏わせた杖で渾身の一撃を放ち、
大柄な刺客を砂丘に叩き伏せた。
残った刺客たちは互いに合図し、闇に紛れて撤退していった。
砂漠には再び静寂が訪れる。
「リディア……今の、どういう意味?」
マリアが不安げに私を見る。
「黒帆の狙いは、王国だけじゃない。
大陸そのものを混乱に陥れるつもりなのよ」
私は夜空を仰いだ。
星々は静かに瞬いている。
その広がりの中で、敵の影はますます大きくなっていた。




