第6章 第2話 遊牧民の誇り
翌朝、遊牧民の天幕の村はすでに動き出していた。
女たちは山羊の乳を搾り、子どもたちは駆け回り、男たちは槍を磨いている。
砂漠の真ん中で、逞しく生きる人々の姿がそこにあった。
「すごい……街がなくても、こんなに力強く暮らしてるんだ」
マリアが感嘆の声を漏らす。
若い戦士のカリムが振り返り、誇らしげに笑った。
「砂漠は厳しいが、星と風が道を教えてくれる。
我らにとってはここが家だ」
昼前、私たちは井戸のそばで休んでいた。
その時、見張りの男が駆け込んできた。
「黒帆だ! 北の砂丘に旗が見える!」
瞬時に緊張が走る。
カリムが槍を握りしめ、鋭い目をした。
「来やがったか……俺たちの水場を狙ってるんだ!」
「私も戦う」
私は杖を握り、立ち上がる。
「守るのは、ここに生きる人々だもの」
マリアも一歩前に出た。
「わたしも。今度は隣で戦う」
砂丘を越えて現れたのは十数人の黒帆の兵だった。
布で顔を覆い、短剣や火矢を手にしている。
「結界を張る!」
マリアが詠唱を始める。
「ウィンド・シールド!」
風の壁が井戸を包み、兵の矢を弾き返す。
だが日差しで熱せられた空気が渦巻き、結界は揺れた。
「このままじゃ……!」
マリアが苦しげに声を上げる。
そのとき、井戸の水が光を反射した。
私は瞬時に魔力の流れを感じ取った。
「マリア、水を媒介にして!」
マリアの瞳がひらめきで輝いた。
「わかった! ……フロスト・ランス!」
杖の先から冷気が走り、水滴が凍り、鋭い氷の槍となって飛んだ。
兵の一人が驚いて後退する。
「やった……! 今の、できた!」
マリアが息を弾ませる。
「初めてでこれなら上出来よ。続けて!」
カリムが槍を突き、ライラが短剣で敵を薙ぐ。
私は雷の魔法で兵を退け、マリアは氷の矢を次々と放った。
やがて黒帆の兵たちは退却し、砂漠の地平に消えていった。
戦いが終わると、遊牧民たちは歓声を上げた。
カリムがマリアの肩を叩く。
「小さな魔術師よ、立派だった。
お前がいなければ、水は奪われていた」
マリアは照れながら笑った。
「まだまだだよ。でも、次はもっとできるようになる」
その言葉に、私は胸の奥で強い誇りを感じた。
彼女は確実に成長している。
その夜、焚き火を囲みながら、カリムが言った。
「北方の都市に行くなら気をつけろ。黒帆の手がすでに伸びている」
星空の下で、私は決意を新たにした。
この旅はもう後戻りできない。
ザハルを止めるまで、歩みを止めることはない。




