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第4章 第2話 港町の陰謀

 王都を出て二日、南方街道の先に海が見えた。

 陽光を反射してきらめく水面、白い帆船、潮風に混じる魚の匂い――

 私はしばし立ち止まり、深呼吸をした。


「海だ!」

 マリアが歓声を上げ、駆け出していく。

 波打ち際で靴を脱ぎ、裸足で水を蹴った。

 その笑顔は、王都で戦った少女とは思えないほど無邪気だった。


 港町セリオンは賑やかだった。

 市場には異国の香辛料や色鮮やかな布が並び、行き交う人々の言葉もさまざまだ。

 私は王都にはなかった自由さを感じた。


「リディア、あれ見て! すごい大きな魚!」

「マリア、声が大きい。……目立ちすぎると面倒よ」


 そう言った矢先、近くの倉庫から怒鳴り声がした。

「金は払ったはずだ!」

「決まりは決まりだ。倍払え!」


 見ると、痩せた商人が屈強な男たちに囲まれている。

 密輸団だろうか、腰の短剣がいやに目立つ。


「止めないと」

 マリアが杖を握った。

「待って、まずは話し合いよ」


 私はマリアに一歩前に出るよう促した。

「練習だと思って、交渉してごらん」


「え、わたしが?」

「そう。杖を振るう前に、言葉を使うのも魔法の一部よ」


 マリアは深呼吸し、男たちに向き直った。

「その人を離して! 町の掟じゃ、暴力で取り立てはできないはず!」


 男たちは一瞬驚いたが、すぐに嘲笑した。

「お嬢ちゃん、いい度胸だな。じゃあ、見せしめにお前から金をいただこうか」


 マリアがたじろぐ。

 私は素早く前に出て、杖の先端を男の足元に突きつけた。


「これ以上やるなら、あなたたちの倉庫ごと燃やすわ」


 男たちの顔色が変わった。

 一瞬の沈黙のあと、彼らは舌打ちして去っていった。


「ご、ごめんなさい、リディア……失敗した」

 マリアが肩を落とす。

 私は首を振った。

「いいえ、失敗じゃない。話し合おうとしたのは立派よ。

 次は、相手の反応を読むことから始めなさい」


 マリアは少し考えてから、こくりと頷いた。

「……次はもっと上手くやる」


 助けた商人が深々と頭を下げる。

「ありがとう。密輸団が港を仕切るようになってから、真っ当な商売ができないんだ」


「彼らの背後には誰かいるの?」

「噂じゃ、海の向こうの傭兵団とつながってるらしい」


 私は眉をひそめた。

 王都を出たばかりなのに、また新しい火種に巻き込まれる予感がした。


 夕暮れ、港町の灯りがともる。

 海面に映る光が揺れ、どこか不穏な気配が漂っていた。


「リディア、これからどうする?」

「調べるわ。港を抑えられたら、この先の国境にも行けなくなる。

 ……たぶん、これは旅の始まりにすぎない」


 マリアが不安そうに私を見たが、やがて笑顔になった。

「じゃあ、一緒に調べよう。わたしも役に立ちたい」


「ええ、一緒にね」


 遠くで船の鐘が鳴った。

 港町の夜が始まる。

 次の嵐は、もう近くまで来ているのかもしれなかった。

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