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第4章 第1話 旅立ちの朝

 王都の空は、驚くほど澄み渡っていた。

 瓦礫の山はほとんど片づけられ、昨日までの戦火が嘘のようだ。

 人々は市場を再開し、子どもたちが広場で笑い声を上げている。


「落ち着いたね」

 マリアが荷物を背負い、私の隣で呟いた。

 まだ小柄な背中に、大きな杖が差してある。

 その姿に、あの頃の守られるだけの少女はもういないと思った。


 王宮の門前では、エリオとカイルが待っていた。

 エリオは相変わらず落ち着いた笑顔で、厚い革表紙の本を差し出す。


「旅先で役に立つと思う。宮廷魔術の基礎理論と、私が書き足したメモだ」

「ありがとう。……これでまた研究が進むわ」

 私は本を抱きしめ、胸の奥に少し切ない温かさが広がる。


 カイルは腕を組み、にやりと笑った。

「剣が必要ならいつでも呼べ。今度は傭兵料を倍にふっかけるけどな」

「やめてよ、そんな物騒な冗談!」

 マリアが笑い、私もつられて笑った。


 そして、最後にエドリアンが現れた。

 王太子としての服装ではなく、旅人のような軽装だ。

 肩の傷はもう癒えているが、その目はまだ少し寂しそうだった。


「本当に行くのか」

「ええ。ここに留まれば、私はまた誰かの影になってしまう。

 でも今は、自分の道を選びたいの」


 エドリアンはしばらく黙っていたが、やがて微笑んだ。

「分かった。君の帰る場所は、ここに残しておく。

 いつか迷ったら、戻ってきてほしい」


「その時は――今度は、笑顔で会えるようにしておいて」

「約束しよう」


 門の外で、民衆が手を振っている。

 子どもたちが花束を持って駆け寄り、マリアに渡した。

「ありがとう! これ、旅の間ずっと持ってる!」

 マリアの笑顔が朝日に輝く。


「行こう、リディア」

「ええ」


 私は王都を振り返った。

 ここは私を追放し、そして再び迎え入れてくれた街。

 もう恐れも怒りもない。ただ、懐かしさと誇りだけが残っていた。


 石畳に最初の一歩を刻む。

 道は王都から南へ、港町へと続いている。

 潮の香りが、もう遠くに漂ってきた気がした。


「マリア、これからたくさんの国を見よう」

「うん! 海も見たい、砂漠も、雪山も!」


 風が頬を撫で、髪を揺らした。

 私は杖を握り直し、心の中で呟いた。


 ――これは、新しい旅の始まり。

 復讐ではなく、希望を探す旅だ。


 朝日が道を黄金色に照らしていた。

 私たちは並んで歩き出す。

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