第3章 第5話 決戦
大広間に響く宰相の笑い声。
彼の足元に、黒い魔方陣が広がった。
空気が重くなり、壁の装飾が軋む。
「禁呪……!」
エリオが青ざめる。
「こんな場所で使えば、宮廷ごと崩れるぞ!」
「いいじゃないか。瓦礫の上に新しい国を作るだけだ」
宰相の瞳が狂気に染まる。
黒い炎が天井まで立ち上る。
床が割れ、魔物のような影が這い出てきた。
宰相が両手を広げ、叫ぶ。
「さあ、血の雨を降らせろ!」
私は杖を高く掲げ、詠唱を始めた。
「マリア、来なさい!」
「はい!」
私とマリアの魔力が重なり、眩い光の陣が床に描かれていく。
風と炎、水と光が絡み合い、巨大な結界が宮廷全体を覆った。
「抑えきれるか?」
カイルが叫ぶ。
「抑えるんじゃない、押し返すの!」
私の声に、マリアが力強く頷く。
宰相の影が結界にぶつかり、耳をつんざく音が響いた。
壁がひび割れ、天井の装飾が崩れ落ちる。
私は必死に杖を握り、魔力を送り続ける。
「リディア、あと少し……!」
「耐えなさい、マリア!」
エリオが補助魔法を重ね、カイルが迫る兵を防ぐ。
宰相は狂ったように魔力を注ぎ込み、黒い炎がさらに広がった。
その瞬間、銀の閃光が走った。
エドリアンの剣が宰相の防御陣を切り裂く。
「貴様はここで終わりだ、宰相!」
「王太子……貴様まで裏切るか!」
二人の剣がぶつかり、火花が散る。
宰相の刃がエドリアンの肩を掠め、赤い血が絨毯に落ちた。
「殿下!」
私が叫ぶと、エドリアンは歯を食いしばって笑った。
「構うな、止めを刺せ!」
私は杖を天に突き上げ、最後の詠唱を放った。
「ライトニング・ジャッジメント!」
白い光が天井を突き抜け、雷鳴が大広間を貫いた。
光の槍が宰相の胸を貫き、黒い炎が一瞬で消える。
宰相は膝をつき、血を吐きながら笑った。
「……遅い。もう、王国は……止まらん……」
その言葉を最後に、宰相は崩れ落ちた。
静寂が訪れた。
燃え残った松明の音と、仲間の荒い息づかいだけが響く。
私は杖を下ろし、膝から崩れ落ちた。
「終わったの?」
マリアが小声で尋ねる。
「ええ……終わったわ」
エドリアンがふらりと膝をつき、肩から血が流れる。
私は駆け寄り、治癒魔法をかけた。
「殿下、しっかりして」
「大丈夫だ……リディア、ありがとう」
その瞳には、あの日見た冷たさはもうなかった。
ただ、国を守ろうとする強い意志だけが宿っていた。
夜明けが近づいていた。
大広間の窓から差し込む光が、戦いの跡を照らす。
王国は、ようやく新しい朝を迎えようとしていた。