第3章 第4話 宰相との対決
夜が明けた王都は、煙の匂いに包まれていた。
焼け跡から上がる蒸気が街路に漂い、民衆は静かに再建を始めている。
けれど、その目はもう恐怖ではなかった。
怒りと希望の炎が同居していた。
「今しかない」
私は仲間たちを見渡した。
「今日、宰相を宮廷から引きずり出す」
カイルが剣を抜き、エリオが呪符を握る。
マリアは杖をぎゅっと抱え、頷いた。
「わたし、絶対に守る。リディアも、街も」
宮廷大広間。
赤い絨毯の上、宰相が悠然と玉座の横に立っていた。
その顔には一片の動揺も見えない。
「追放者が戻ったか。……処刑場を用意する手間が省ける」
私は一歩前に出た。
懐から紙束を取り出し、床に叩きつける。
「これがあなたの罪の証よ。王国軍の不正配置、暗殺命令書、横領の記録……全部揃ってる」
宰相の目が一瞬だけ揺れたが、すぐに冷笑に変わった。
「そんな紙切れで何が変わる? ここは私の城だ」
手を振ると、宰相派の兵たちが四方の扉から雪崩れ込む。
大広間はたちまち戦場になった。
「防御結界!」
エリオが詠唱し、青白い膜が私たちを包む。
矢が降り注ぎ、火花を散らす。
私は杖を掲げ、詠唱を重ねた。
「ファイア・ランス、五連!」
炎の槍が一直線に飛び、兵士たちを吹き飛ばす。
カイルが剣で押し返し、マリアが風の壁を展開する。
「もっと強く張れ!」
「やってる!」
汗がマリアの額を流れる。
でも結界は破れなかった。
そのとき、玉座の奥の扉が開いた。
白いマントを翻し、王太子エドリアンが現れた。
広間の空気が一瞬凍る。
「……やめろ、宰相」
低く、しかしはっきりとした声だった。
「王国の名の下に、貴様を拘束する」
宰相が嘲笑する。
「殿下、あなたにその権限があるとでも?」
「ある。……今この場で行使する」
エドリアンは剣を抜き、宰相に向けた。
その姿に、私は息を呑んだ。
あの日、何も言わず私を切り捨てた人が――
今は、剣を抜いて私と並んで立っている。
「リディア。今度は、共に戦わせてくれ」
私の胸の奥で何かが弾けた。
怒りと哀しみと、ずっと求めていた言葉が混ざり合う。
「いいわ。……これで借りは帳消し」
私は杖を構え直した。
宰相が冷たい笑みを浮かべ、指を鳴らす。
背後の扉から、漆黒の鎧を纏った魔術兵が現れる。
「さあ、真の決戦といこうじゃないか」
大広間の空気が震えた。
私たちと宰相の最後の戦いが、始まろうとしていた。