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第2章 第5話 再会と衝突

 王都に潜入してから三日。

 私はエリオの案内で、宮廷の動きを探っていた。

 宰相派の貴族が勢力を増し、街では不満が高まり、衛兵が通りを監視している。

 その緊張の中、私はついに“その場所”に足を踏み入れることになった。


 ――王宮。

 追放された日以来、二度と来ることはないと思っていた場所。


 夜明け前の薄暗い回廊を進む。

 石造りの壁に松明の光が揺れ、遠い記憶が胸を締めつける。

 私は何度もこの廊下を歩いた。王国を守る魔術師として、未来を誓った人の隣で。


「ここから先は、俺でも付き添えない」

 エリオが小声で告げた。

「……気をつけて」


 私は頷き、杖を握りしめた。


 謁見の間に入った瞬間、時が止まったように感じた。

 高い天井から垂れる旗、赤い絨毯、その奥に立つ男。

 ――王太子、エドリアン。


 変わっていない。

 いや、変わってしまったのだ。

 目の下には疲れの影、しかしその姿はまだ凛としていて、美しかった。

 私がかつて愛した人、その人だった。


「……リディア」

 低い声が響いた。


「殿下」

 私は冷たく返した。

 胸の奥で渦巻く感情を、どうにか抑え込む。


「生きていたのか」

「ええ。あなたに“追放”されたから」


 空気が震えた。

 エドリアンの目がわずかに揺れる。


「なぜ、あの日……私を信じなかったの?」

 私は一歩踏み出した。

 声は震え、抑えていた怒りがこみ上げる。

「私が禁呪を使うはずがない。あなたは知っていたはずよ! 一緒に戦ったでしょう? 何度も!」


「……リディア」

「どうして黙っていたの? どうして私を庇わなかったの!? 愛してると言った言葉は全部嘘だったの?」


 声が広間に響き、胸が痛くて涙が出そうになった。


 エドリアンは目を伏せ、唇を噛んだ。

「……私は、君を守りたかった」

「守る? 追放しておいて?」

「処刑の声が上がっていた。宰相は君を死刑にしようとした。……追放は、あれ以上の罰を避けるためだったんだ」


 言葉が、胸を刺した。

 本当にそうだったのか?

 だが、そのとき私は独りだった。誰も信じてくれなかった。


「なら、なぜ言わなかったの! 理由を、真実を……!

 黙って冷たい目で切り捨てられたあの瞬間、私は死んだのよ!」


 涙が頬を伝う。

 エドリアンの拳が震えているのが見えた。


 しばしの沈黙。

 やがてエドリアンは顔を上げ、静かに言った。


「今も、君を信じている。……だが、私は王太子として国を選ぶしかなかった」


 私は唇を噛む。

 その言葉に救われたい気持ちと、許せない気持ちが同時に渦巻く。


「もう遅いわ」

 私は背を向けた。

「私は、復讐のためじゃなく……国を変えるために戻った。

 あなたがその道を阻むなら、私は戦う」


 広間の空気が張り詰める。

 エドリアンの声が背に届く。

「リディア……頼む、命だけは大事にしてくれ」


 私は答えず、扉を押し開けた。


 廊下に出たとき、マリアが待っていた。

「リディア……大丈夫?」

「ええ。……でも、心はまだ揺れてる」

「揺れてもいいよ。揺れても、歩き続ければ」


 マリアの言葉に、私は小さく笑った。

 そうだ、私は揺れてもいい。

 ただ、止まらなければ。

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