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第2章 第4話 王都潜入

 旅路はさらに二日続いた。

 朝靄の中、丘を越えたとき、視界いっぱいに巨大な城壁が現れた。

 王都――あの日、私を追放した場所。


 遠くからでも分かるほど高くそびえる城壁は、かつて私が誇りに思った王国の象徴だった。

 だが今は、胸の奥に冷たい棘が刺さるような感覚しかない。


「これが……王都」

 マリアが思わず声を漏らす。

「すごい……大きい……!」


 カイルが肩をすくめた。

「見かけは立派だが、中は荒れてるって噂だぜ。宰相が好き勝手やってるってな」


 セシリアが唇をかみしめる。

「正門から入れば、すぐに衛兵に捕まるわ。追放者の顔は城下町にも通達されているはず」


 私は頷いた。

「例の水路を使うしかないわね」


 夜、王都の北側。

 森の奥に隠された古い水路の入口があった。

 苔むした石扉を押し開けると、冷たい空気と腐葉土の匂いが押し寄せてくる。


「狭いな……」

 カイルが剣を抜き、先に進む。

 マリアは杖を握りしめ、私の後ろにぴったりとついてくる。


 地下水路は迷路のようだった。

 頭上から水滴が落ち、足音が反響する。

 時折ネズミの群れが走り抜け、マリアが小さく悲鳴を上げる。


「大丈夫、もう少しよ」

 私はマリアの肩を軽く叩いた。


 やがて、朽ちかけた格子窓から外の光が差し込んだ。

 私たちは順番に身を乗り出し、王都の裏通りに出る。


 そこは裏市場に近い狭い路地だった。

 人々は痩せこけ、物売りは怒鳴り合い、どこかで赤ん坊の泣き声が響いている。

 私が知っていた王都は、もっと明るく、活気に満ちていたはずだった。


「ひどい……」

 マリアがつぶやく。

「これが、殿下の治める国?」

 セシリアが苦い顔をした。

「兄上は……宰相に操られている。あの日も、きっと……」


 私は視線を落とし、唇をかみしめた。

 ――信じたい。でも、まだ許せない。


 そのとき、路地の奥から声がした。

「……リディア?」


 振り向くと、背の高い青年が立っていた。

 青いローブ、銀の紋章――宮廷魔術師の制服。


「エリオ……!」

 かつて同僚だった青年だ。

 驚きと喜びと警戒が同時に胸を満たす。


「生きてたのか……! みんな、君は処刑されたと思ってた」

「処刑じゃない、追放よ」

 私の声は少し硬かった。


 エリオは周囲を見回し、声を落とした。

「ここでは話せない。安全な場所に行こう。宰相の目が光ってる」


 私たちはエリオに案内され、裏通りの奥にある古い倉庫へ入った。

 中はひんやりしていて、埃っぽい匂いがする。

 エリオは深く息を吐いた。


「宰相が完全に宮廷を牛耳っている。殿下は表向き王都を治めているが、

 実際は何も決められない。……あの断罪も、宰相の指示だったと噂されている」


 私は拳を握った。

「やはり、あの男……」


 エリオは私の肩に手を置いた。

「君が王都に来てくれてよかった。……でも、気をつけろ。

 君を再び陥れようとする者も、きっといる」


 私は頷いた。

「なら、正面から戦うしかないわ。証拠を集める。

 宰相を暴き、王国を取り戻す」


 マリアが隣で杖を握りしめる。

「わたしも戦うよ。今度は、怖くても逃げない」


 その言葉に、私は微笑んだ。

 ――王都は私を追放した場所。でも今は、戦うべき場所だ。

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