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第2章 第3話 道中の試練

 村を出て三日目。

 空気はしっとりと湿り、朝露が草を濡らしていた。

 私は馬の手綱を引き、深呼吸をした。

 村を離れて初めて感じる、広い世界の匂い。


「ねえリディア、王都ってどんなとこ?」

 マリアがフードを押さえながら歩いている。

「高い城壁に囲まれた街よ。市場は賑やかで、魔術師の塔もある」

「わあ……」

 マリアの瞳がきらきらと輝く。

 ――あの日、あの場所で断罪された私とは、きっと違う景色が見えるはずだ。

 そう思いながらも、胸の奥に刺さった棘はまだ抜けていない。


 昼過ぎ、宿場町の入り口で人だかりができていた。

 旅人たちが噂話をしている。


「税がまた上がったらしい」

「街の貧民街じゃ暴動寸前だとよ」

「王都はもう宰相の言いなりだ」


 私はフードを深くかぶった。

 セシリアも唇を固く結んでいる。

 王都は、私が知っていた頃とは違う場所になりつつあるのだ。


 その夜、街道沿いの森で野営することになった。

 火を焚き、簡単な夕食を作っていると、背後から声がした。


「ずいぶん用心深いな。旅の者か?」


 振り向くと、皮の鎧を着た若い男が立っていた。

 腰には大きな剣、肩には古びたマント。

 傭兵らしい風貌だが、目は人懐っこい光を宿している。


「ただの通りすがりさ。ここらは最近、盗賊が出る。気をつけろよ」

「あなたは?」

「俺か? カイル。暇を持て余した剣士だ。盗賊退治なら腕が鳴るぜ」


 私は少し考え、頷いた。

「なら、ここで一晩だけ護衛を頼みたい」

「報酬は?」

「魔術で焼いた獣肉と、宿場町の情報」

「いい取引だ」


 だがその夜、火が小さくなったころ、森の奥から足音が聞こえた。

 カイルが剣を抜く。

「来たな……」


 月明かりに浮かんだのは、粗末な鎧をつけた盗賊たち十人ほど。

 リーダーらしき男がにやりと笑った。


「荷を置いて行け。命までは取らねえ」


「冗談じゃないわ」

 私は立ち上がり、杖を構えた。


 戦闘は一瞬で始まった。

 炎の槍が飛び、盗賊の盾を弾き飛ばす。

 カイルの剣がひらめき、二人を薙ぎ倒す。


「マリア、下がって!」

「でも、やれる!」


 マリアが両手を突き出す。

「ウィンド・カッター!」


 鋭い風刃が盗賊の足を切り裂いた。

 男が悲鳴を上げて倒れる。

 マリアの顔が青ざめる。


「……私、人を……」

「生きるためよ、マリア」

 私は短く言い、次の呪文を唱える。


 火と風が合わさり、爆ぜる光が森を照らした。

 盗賊たちはたじろぎ、やがて退却していった。


 戦いが終わると、マリアは座り込んだ。

 私はそっと隣に座り、彼女の肩に手を置く。


「怖かった?」

「……うん。でも、もう逃げない。怖いままじゃ、もっと嫌だから」

 その言葉に、私は胸が熱くなる。

「そう、それでいい。……少しずつ強くなろう」


 カイルが剣を鞘に収め、にやりと笑った。

「お前ら、なかなかやるな。王都まで一緒に行ってやろうか?」


 私は頷いた。

「歓迎するわ。旅の仲間は多い方がいい」


 焚き火の火がぱちぱちと弾けた。

 新しい仲間、新しい戦い、そして王都への距離。

 すべてが、確実に近づいている。

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