第7話
「ただいま戻りました。」
ズカズカと歩き、食堂に集まっていた家族へ声をかけると、私を見た全員が目を見開く。
「……おかえり。今日は卒業パーティーではなかったかな?」
手に持っていたカトラリーを置いたお父様は、戸惑ったように私へ尋ねる。
騎士の正装をした私を、ほんの数刻前に送り出した家族は、まだパーティが終わる時間ではないと知っていた。
それを気にもせず、私は「そうですね」と答え椅子に座る。困惑したお父様の綺麗に整えられた銀髪がはらりとひと房、額へ落ちた。
私の行動に疑問を抱いている家族を横目に、メイドへ紅茶だけ淹れるように指示をすると、私はパーティでの出来事を話し始めた。
「レオルド様に婚約破棄を告げられ、『竜の契約』も白紙となりました。」
私がざっくり説明すると、お父様の横に座っていた、堅物でシスコンな兄・シエルが、若葉色の瞳を鋭く細めて立ち上がる。
何をしているのだと見れば、「抗議しに行く」と言う。
「……お兄様、落ち着いてください。正直、レオルド様に興味はありません。どうでもいいことに時間を割くのは無駄でしょう。既に破棄の手続きは済んでいますし。」
紅茶を淹れてくれたメイドにお礼を言って、脚を組みながらカップを摘む。お兄様は、私の言葉で眉間に皺を寄せながら、ため息をついて座り直した。
「あらあら、クレアちゃんの花嫁姿楽しみだったのに。」
お母様は最初心配そうな顔をしていたが、私が気にしていないと理解したようで、今度は残念そうに肩を落とす。
「申し訳ありません。」
特に婚約の破棄についてはなんとも思っていないが、楽しみにしていたお母様には悪い事をした。今度お詫びに、カフェやブティックへエスコートしよう。
そう決めた私の考えが分かっているのか、お母様はエメラルドグリーンの瞳を柔らかく細め、「仕方ないわね」と苦笑する。
「あんな奴にクレアをやらなくて良かったのです。」
綺麗な金髪を耳にかけ、苛立ったように腕を組んだお兄様に、お母様も微妙な顔をした。
淡々としている私の横で、食事をしている手を止めた弟・テオドールが、頬をふくらませた。
「こんな完璧なお姉様が気に入らないなんて、救いようのないクズですね。だから、第一王子のくせに、継承権第二位なんですよ。努力もしないくせに、プライドばかりが高くて本当にバカみたい。」
「……テオ?言い過ぎじゃない?それに仕方ないよ。第二王子のカイネル様の方が、性質的にも王に向いてるからね。」
私の言葉に不満気な表情のまま、テオドールはまた食事を始める。
毒舌なテオドールの容姿はお兄様と似ている。少し違うのは、テオドールの方が表情が豊かで、お兄様は無表情なところだろうか。
そんな私たちの様子に苦笑したお父様は、私と同じ深い青の瞳を細める。
「……そうか。起こってしまったことは仕方ない。後日また連絡があるだろう。」
そう言ったお父様へ、「すぐに謝罪文と慰謝料を送ると言っていましたよ」と告げると、「そうか」と深く息を吐いた。
「クレアは、なにかしたいことがあるかい?」
テーブルの上で手を組み、穏やかに私を見つめるお父様の言葉にほんの少し考える。
「宰相と同じことを聞きますね。……うーん、特にありません。陛下にも暫くゆっくりしろと言われましたし、のんびり考えてみます。……どうせ私の寿命は、人よりだいぶ長いのですし。」
あまり深く考えない私に、お父様は曖昧に「そうだね」と呟く。なんとなくお父様の呆れを感じ取った私は、沈黙が流れる前に口を開く。
「じゃあ、報告も終わりましたし、私は部屋に戻りますね。」
そう言って立ち上がると、すかさずお兄様がエスコートしてくれる。騎士服を着ている私の手を、丁寧に引くお兄様に苦笑してしまう。
お兄様にはこんな格好をしている私が、まるでお姫様にでも見えているようだ。
「相変わらず過保護ですね。」
窓の外の月明かりに照らされ、お兄様の金の髪がキラキラと輝いている。
私の部屋の前に着くと、お兄様はお母様とそっくりの緑の瞳を細める。
「いつまで経っても、クレアは可愛い妹だ。」
「はいはい。ありがとうございます。……では、おやすみなさい。」
「ああ。ゆっくり休みなさい。」
そう言って私の頭を撫でるお兄様は、普段から冷徹貴公子と呼ばれる人には見えない。
扉が閉まり、自分の足音だけが響いていた。
見慣れた奥の部屋に入り、シンプルに調えられたクローゼットを開ける。疲れていた私は、そのまま自分へ洗浄の魔法をかけると、楽な服へ着替えてベッドに沈みこんだ。
次は水曜日に(૭ ᐕ)૭




