第5話
竜人。
──簡単に説明をすると、長寿で、能力の高い種族。
その存在は今や“幻”として扱われている。
古文書や伝承の中では語られているが、実際に生きた証拠はほとんど残っていない。
ゆえに学者たちの間でも、その存在を信じる者と否定する者で意見が分かれる、曖昧な存在。
けれども、私は知っている。
なぜなら──私はその末裔だからだ。
だが、その話をする前に、まずはこの国に古くから伝わる“おとぎ話”を聞いて欲しい。
これは子供でも知っている、有名な昔話。
けれど、真実を知る者にとっては、それは単なる物語ではない。
はるか昔。
人々の憎しみと欲望がぶつかり合い、世界は絶えず争いの炎に包まれていた。
空には煙が立ち上り、地には血が流れ、誰もが疲弊していた。
街は瓦礫と化し、草木は枯れ果て、かつて豊かだった自然の姿は影も形もない。
森から現れていた魔物たちさえも、飢えと疲弊により数を減らしていた。
──そんな混沌の只中、ある国の王が一つの“噂”を耳にする。
「北の果てに、世界を変えるほどの力を持つ“竜人”がいるらしい。」
家臣たちは一様に反対した。
「真偽も分からぬ噂に身を賭けるなど、あまりにも危険です」と。
だが王は、決意を固めていた。
たとえ偽りであろうと、平和の兆しになる可能性があるなら──賭ける価値があると。
そして、王は旅に出た。
数ヶ月に及ぶ北への旅路。
厳しい山々を越え、獣の潜む深い森を進み、吹き荒れる雪嵐の中を黙々と歩いた。
雪に足を取られ、凍てつく風に肌を裂かれ、それでも王は立ち止まらなかった。
やがて、雪の中で倒れた王は、意識を手放しかけた。
命の灯が消えかけたその時、彼を助けた者がいた。
──それが、竜人だった。
王は目を覚まし、己が命を救った存在に驚きつつも、即座に頭を垂れた。
「どうか、力を貸していただけませんか。私は、この世界から戦争を無くしたいのです。」
竜人は静かに王を見つめた。
瞳には、幾千の時を見てきたような深い光が宿っていた。
「私の力は強すぎる。どちらか一方に肩入れすることはできない。」
その言葉は淡々としていたが、確かな戒めのように響いた。
だが、王はなおも食い下がった。
「戦うためではなく、止めるために力を借りたいのです。貴方が立ち上がるだけで、争いは止まるかもしれない。」
その訴えに、竜人の瞳がわずかに揺れる。
──この王は、名誉や支配ではなく、真に民を思っているのかもしれない。
しばしの沈黙の後、竜人は頷いた。
「ならば、“止める”だけだ。人の命を奪うことはしない。方法は、私が選ぶ。」
その言葉を受け、王は深く頭を下げた。
国へ戻った王と竜人は、戦場へと赴いた。
その姿を見て、多くの者が戸惑い、恐れ、そして……驚いた。
竜人は手を翳し、地を割った。
咆哮一つで空を裂き、魔法で嵐を呼び、雷鳴を轟かせた。
天候さえ自在に操るその姿は、まさに“神の化身”のようだった。
戦場にいた者たちは、武器を取り落とし、地に膝をついた。
竜人は誰一人傷つけることなく、ただ力の存在を“見せつけた”のだ。
それだけで、各国の王たちは白旗を上げた。
「勝てぬ」と悟ったのだ。
やがて、戦争は終結した。
各国は同盟を結び、王は法を整え、民に働く場を与えた。
失われた日々の中から、小さな幸福が一つずつ戻っていった。
人々の暮らしに笑顔が戻り、歌声が広がり、子どもたちが走り回る姿があった。
そして──王と竜人は、真の友となった。
ここまでが、この国に伝わるおとぎ話の“表”の部分。
だが、貴族の中でもごく一部だけが知る“裏”の真実がある。
戦の終わった後、王は竜人にこう語った。
「共に人として生きてはくれないか。君のことを、この国の一人として迎えたい。」
その願いに、竜人はしばし悩んだ。
人とは異なる寿命、変わらぬ容姿。それが目立てば、不自然さは避けられない。
けれど、王の誠実な眼差しを前に、竜人は静かに頷いた。
「君がこの国を治める間は、傍で見守ろう。」
そうして、王と竜人は“竜の契約”を結んだ。
──それは永きに渡る、見えざる盟約の始まりだった。
竜人の血を継ぐ家系・ディーネ家は、代々、王家と深い関わりを持ち続けてきた。
ある者は王族と婚姻し、ある者は政治の補佐に徹し、またある者は陰から国を見守った。
そして長い年月を経て、竜人の血が薄まってきている今、私は──
「最後の竜人」と呼ばれている。
この事を知っているのは私の家族と一部の使用人、そして王家と宰相であるクラウドだけだ。
この話で大体理解できただろう。
私がどれほど貴重な存在か。
それを王家は理解している。一人、例外を除いて。
次回更新は金曜日になると思います( . .)"
時間は22時で統一していきます。




