第4話
「ニコラ・ノルディスはどう致しましょうか。」
クラウドが静かに問いかける。
それにジークハルトは「ああ」と思い出したかのように呟く。
「あの令嬢にも教育を受けさせよう。その間に子爵家を調査し、問題がなければ王子妃教育を。」
クラウドに指示をしたジークハルトを、アリスティアは「なぜ?」と眉を顰めてみている。表情からして、既にニコラが好きではないようだ。
王子妃教育となれば、アリスティアも関わることが増える。気が進まないのだろう。
「レオルドのあの様子では、他国に出すことも出来ん。それに、あの娘はレオルドのためなら、能力を発揮してくれるかもしれん。」
疲れたように話すジークハルトは、ニコラが頑張ることに賭けているようだ。
確かに、ニコラはレオルドの為なら努力をするかもしれない。それでも、基準値に足りない場合はどうするのだろうか。
そう思ったのは私だけではないようで、アリスティアは嫌そうに眉間に皺を寄せ身を乗り出した。
「私には彼女が王子妃に相応しいと思えないわ。」
「そうだな。」
「でしたら、なぜ?」
アリスティアが心底不思議そうな顔をする。私もクラウドも黙ってジークハルトを見つめた。
すると、みんなの視線を受けたジークハルトはニヤリと笑って答える。
「あれだけ、愛だなんだと言っているんだ。あいつにとっての愛がどんなものか、見てみようと思ってな。」
どうやら、言葉の責任を取らせるつもりらしい。
愛だけで生きていけるわけがない。それをジークハルトはレオルドに分からせる気のようだ。
ニコラに王子妃教育を施すのは建前で、不合格として王家には迎えられないとするつもりか……。
まぁ、王族の婚約を邪魔したのだ。当たり前だろう。
それを向こうが納得する形で示すらしい。
そうしておそらくだが、レオルドはノルディス家に婿入りさせられるだろう。
王族から一変、子爵家の者となり生活に困るのは目に見えている。その時に彼は何を思うのだろう。
プライドの高い彼が、質を落とした生活を出来るのだろうか。
その時になっても、愛があれば幸せだなどと綺麗事を言えるのだろうか。
それほど想いあってる人がいるのなら、少し羨ましい。ほんの少しだけそう思った。
ジークハルトの言葉に納得したアリスティアは、複雑そうな表情で「そうね」と言った。
そこでドアをノックする音が聞こえ、ジークハルトが入室を促す。すると、騎士に連れられたレオルドが見え、金の瞳と目が合う。
「なぜお前がここにいる。」
随分な言いように、顔を顰めたジークハルトは「黙って座れ」と促した。
「契約の破棄を行います。」
使用人が出ていったことを確認したクラウドに、そう説明され納得した。
ジークハルトに視線で促されたクラウドが、そっと静か取り出した一枚の書類。
『誓約書』
魔法陣が刻まれた契約書。
魔道具の一種で、不正や書き換え等は一切できない仕様だ。契約者の魔力を流し、その者の行動を縛る。
秘密は話すことが出来なくなり、違反をすればその行動を辞めるまで体が痺れ動けなくなるそうだ。
大事な取引や、機密情報を取り扱うときに使用されるこの紙は、既にサインがされている物だ。
幼い頃にレオルドとの婚約が整った時に書いたサイン。
忘れたことは無いが、契約内容はこんなものだっただろうかと目を通す。
『《レオルド・マグネリア》は《クレア・ディーネ》の竜の契約の主とする。
一、契約主が望む限り力を貸すこと
一、双方契約期間はパートナーとすること
一、契約者は人道に反することは拒否ができること
以上、契約とする。
見届人:クラウド・ドラグナー』
まだ書きなれていなかった歪な文字をなぞり、顔を上げた私はジークハルトへ問いかける。
「……この文言通りなら、私の役目は終わりと認識しても?」
冷静な私の問いかけに、ジークハルトは悔しそうに俯いて手を握った。
「……ああ、そうだな。そのためにレオルドを呼んだのだ。」
その言葉にほっとする。
本当に終わりなんだと思え、意味の無くなった紙切れに視線を落とす。
「……では、よろしいですか?」
クラウドの言葉に頷く。
レオルドも今は大人しく口を噤み、座っている。
誓約書の契約を破棄する場合は、サインを書いた当事者と、見届人が揃っていなければいけない。
机の上に置いた誓約書にクラウドが魔力を流す。そうして、青白く光った自分の名前に手を向けて私もレオルドも魔力を流した。
耳鳴りのような音が鳴り響き、光る文字をじっと眺める。
静かな空間に誰かの息を呑む音が聞こえた気がした。
光が治まりソファに座り直すと、ほんの少し軽くなった心をそっと片手で押えた。
「もうよろしいですか。」
苛立ったように立ち上がったレオルドは、返事を聞く前に扉に歩み寄る。
「待て。……明日からお前たち二人は謹慎とし、教育をやり直す。二ヶ月後、基準値に満たない場合は、お前を王族の籍から抜くことを覚えておけ。」
ジークハルトに冷たく言い放たれ、レオルドは悔しそうに唇を噛んで俯いた。
「行っていいぞ。」
退出を促された彼は、顔を上げると最後に私を睨みつけて「失礼します」と出ていった。
「はぁ……あいつはまるで子供だな。少しはクレア嬢を見習って欲しいものだが。」
呆れたようにジークハルトは呟く。
そんなジークハルトを見て、比べるような発言も良くは無いと思うが声には出さない。
劣等感の塊のようなレオルドは、私と比べられる発言を心底嫌っている気がする。
比べる発言をする方もどうかと思うが、そこまで気にする必要は無いと私は思う。そもそも能力の基準値が違うのだ。
私は『竜人』なのだから。
次は明日22時に更新します( . .)"
ゆっくり更新していきますので、お付き合い頂けると有難いです。
≫これは余談ですが、広告があると見にくいですか?
個人的にはあまり気にならないですが、連載中は外そうかなとも思っているので、意見があれば……。




