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ものぐさ令嬢は永遠なんて信じない  作者: 海瑠トワ
第一章 クレア・ディーネ

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第2話

「はぁ。そうですか。」


 興味無さげに答えた私へ、彼はさらに憤怒に顔を染め、美しいと言われる容姿を歪ませた。赤と金の大袈裟な衣装は、隣の少女とお揃いなのだろうが、派手な装飾が彼の薄い容姿を霞ませる。はっきり言って似合っていない。


「本当にお前は可愛げがない!僕はお前の隣にいることが心底恥ずかしかったんだ!」


「……ご自分の立場がお分かりで?」


 淡々と事務的に聞くと、レオルドは握った拳を震わせる。


「僕は王子だ!いちいち口出しするな。大体、その格好はなんなんだ!女だというのに恥ずかしいとは思わないのか!?少しは着飾ってみせたらどうなんだ!」


 そう言って彼は、騎士服を着た私を指さした。きちんと正装だというのに、気に入らないらしい。


「なぜ、いけないのでしょうか。」


 真っ直ぐ目を見て問いかけると、レオルドは少しだけ怯み眉間に皺を寄せた。


「……うるさい!女らしい格好をしろと言っているんだ!」


「……レオルド様が言いましたよね。『お前のような怪力女はドレスなど似合わない。騎士の格好でもしていろ。』と。」


 私が淡々と事実を述べると、周りの視線が彼へ集まる。ざわざわとし始めた周囲を、気にするように見回したレオルドは、顔を赤くして「そういう態度が嫌いなんだ」と叫んでいる。


 幼い子どものような言い草に、段々と時間の無駄ではと思えてきた。

 周りもそう感じたようで、大半が迷惑そうな顔をしていた。


「それに、お前が騎士のような真似事をしているからだろう!?」


 そう言った横で、ビクリと肩を揺らし怯えたように私を見るニコラ。そんな彼女を宥めるように、レオルドは肩を抱いている。


 しかし、理不尽を受けているのは私の方だ。


 私の視線でさらに身を固くしたニコラへ、終始怒鳴っているのも、威圧しているのも、お前の隣の男だと言ってやりたい。

 まぁ、図太い彼女の事だ。怯えた表情も、震えているのも、演技なのだろう。


 小さくため息をついた私は、説明してあげることにした。


「……それはレオルド様が『僕を守るのがお前の役目だ』とおっしゃったからです。」


 魔法が得意な私へ、レオルドは嫌がらせのように剣を持つように指示した。私が苦労するところが見たかったのだろうと思う。


 しかし、当ては外れた。

 言われた通り私は剣を握り、師事してくれた騎士の言うとおり振るってみせた。型を覚えるとあっという間だった。

 最初はバカにしたように見学していたレオルドは、問題なく剣を振る私を忌々しそうに眺めていた。


 そんな出来事を思い出し、少しバカにしたようにレオルドを真似て話すと、今にも掴みかかりそうな表情をしている。それにはニコラも流石に慌てて、彼を離さないとばかりに腕に巻きついた。


 一向に進まない話し合いを、これ以上続けるのは馬鹿馬鹿しい。どうでもいい人に割く時間などないのだ。


「婚約破棄の件、承知しました。契約破棄の書類は準備されていますか?」


 持っているグラスを傾け、果実水を口に含む。少しぬるくなってしまっているが、それでも美味しいことに変わりはない。


 怒っていた彼は、私がそう言ったことで拳を下ろし、フンっと鼻を鳴らし使用人を呼んでいる。侍従が差し出した書類を乱雑に受け取ると、そのまま私へ突きつけた。


「早くサインをしろ。」


「……ディーネ公爵令嬢、こちらへ。」


 既にレオルドの名が書かれている書類へ目を落とすと、彼の侍従が困ったように指し示した台へ向かう。

 高価そうなペンを受け取り、サラサラと名前を書き記す。


 その様子に周りは、勝手にしてもいいのかとヒソヒソと話しているが、私の知ったことでは無い。

 どちらにしろ、こんな大勢の前でレオルドが大声で婚約破棄を宣言し、私がそれを了承したのだ。契約の破棄が早まっただけの話。


 サインをし終え、書類とペンを渡すとレオルドは満足そうにニコラに微笑む。


「これで、ニコラと一緒にいれる。」


 浅慮な考えに思わずフッ、と笑ってしまった。


「……何がおかしい?」


 鋭い視線が突き刺さる。

 この人はいちいち睨まないと会話ができないのだろうか。


「いえ、なにも?」


 面倒臭い予感がしてしらを切る。

 しかし、それで逃がしてくれるような人ではないのだ。


「はっきりと言え。何がおかしい!」


 大声をあげ、騒ぎを起こし、なんて迷惑な人だ。

 周囲の呆れた顔に気づかない二人へ、ため息をついた。


「本当に、彼女と一緒になるおつもりだったのだと思いまして。」


 ゆらゆらとグラスを揺らしながら答えると、レオルドは「は?」と疑問を零す。


「いえ、思うだけならいいのです。ただ、本当にそうしたいのなら、どうするおつもりかと。」


 説明をしたにも関わらず、彼は未だに意味が分からないという顔をする。そんなに難しいことは言っていないのだがな。


「……本当に、彼女が『王子妃』になれるとお思いで?」


「ニコラに資格がないというのか!?」


 大きな声で怒鳴り散らす彼は、品性の欠片も感じさせない。


「……そんな、酷い……。」


 涙目で見上げるニコラ。私は気にせず「はい、その通りですね」と即答する。


「……むしろ、なぜ相応しいとお考えで?爵位、能力共に特出するところはなく、政治的利用価値は無に等しい。……貴方様は、政治をおままごとと勘違いしているのでしょうか?」


 子爵家の身分で王子妃となるには、それなりの利用価値が必要だ。特別な魔法の力、とびぬけた発想力。なんでもいい。とにかく自分の価値を証明する必要がある。

 しかし、彼女は特出した才能など見受けられない。おそらく、王子妃となれるほどの価値を示すことは難しいだろう。


 はっきりと告げた私の侮辱に二人して沈黙する。

 それでも尚、レオルドは私を睨み続ける。


「私と婚約を破棄したところで、レオルド様には新しい婚約者ができるだけ。……ノルディス嬢はせいぜい愛妾、では?」


「うるさいっ!お前の意見など必要ない!」


 現実を教えてあげたというのに、彼は理解したくないようだ。そこで、もう一つ、前から思っていたことを告げる。


「でしたら、お二人して平民になっては?政略が嫌、愛妾は嫌。そんなわがままは貴族では許されないでしょう?その点、平民は愛で婚姻を結んでいます。大変かもしれませんが、お似合いのお二人にぴったりでは?」


 私の提案にニコラはそっと隣を見上げる。

 おそらく、彼女はどこまでもレオルドについていく気だろう。


 しかし、レオルドはそんなニコラに気付かず、喚き散らす。


「馬鹿にしているのか!?なぜ僕が平民に?あんな奴らと同じにするな!」


 相変わらず凝り固まった思想を持っている。


 私が呆れたように肩を竦めると、会場にコツコツと足音が響いた。


「レオルド。何をしている。」


 鋭い金の瞳で真っ直ぐにレオルドを見た国王は、低くよく響く声で言い放った。


 赤いマントを羽織った威厳のある立ち姿に、予定より早く帰ることが出来そうだと安堵していた。

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