第16話
二日ほどゆったりと過ごし、暇になった私は街で購入した焼き菓子を手に、孤児院を訪れていた。
「クレアさん。お久しぶりですね。」
孤児院の管理を行っている女性、エレオノーラの言葉に頷く。
「ええ。お久しぶりです。」
手に持っていた焼き菓子を渡すと、「子供たちが喜びます」とにこやかに笑う。
「わぁ!たくさんあるー!」
「おいしそうー!」
元気な声が上がり、子供たちが駆け寄ってくる。
休暇などの際に領地へくると、こうして孤児院へ足を運んでいたため、子供たちからも顔を覚えられている。きっと、お菓子をくれる人だと思われているだろう。
「どうぞ、ゆっくりしていってください。」
エレオノーラの言葉に「そうします」と返して、はしゃいでいる子たちに手を引かれる。
「今日はなにするー?」
小さな女の子に問いかけられて「なんでもいいよ」と返すと、軽快なお喋りが始まる。ここの子たちは私がお土産を持ってくるからか、はたまた単純に慣れたのか、私の無表情を怖がることはない。
ただ、私がおままごとといった遊びが不得意なのは知ったようだ。
最近はそういった遊びには誘われることはなくなった。苦手では無いのだが、子供たちのように明るい反応は出来そうにない。
「そういえばね、この間、こんやくしようって言われたの。」
マリーという女の子が中心で声をあげると、周りの子はキョトンとする。
「こんやく?」
「将来けっこんしようって約束なんだって。……だよね?」
疑問に答えたマリーが私を見上げて、ぱっちりとしたヘーゼル色の瞳を向ける。
「……そうだね。」
十にもなっていないのに婚約話なんて、ませた子たちだなぁ。そんな感想を抱きつつ、はしゃいでいる子たちを眺める。
「マリーちゃんはなんて答えたの?」
「いいよって。」
「えっ!テッドくんのこと好きなの!?」
盛り上がってきた会話になんとも微妙な気分だ。髪を耳にかけながら落ち着かなくて腕を組む。
「うーん、そうじゃないけどー。」
マリーは少し考えるような仕草をしてニコッと明るく笑った。
「嬉しかったから!それに、今から好きになるかも!」
なんとも前向きな考えだ。
私もそう思えていたら、レオルドとの関係も少しは違ったのだろうか。今更無駄なことを考えかけて、いや、無理だなと思考を払う。
すると、子供たちの視線が私に集まり何となくその理由を察した。
「クレアちゃんは?」
無邪気な問い掛けになんと答えていいか迷う。
しかし、結局取り繕うことができず「私の婚約は無くなったんだよ」と答えた。
「へぇー、そうなんだ!じゃあ次は好きな子と結婚できるね!」
キラキラとした瞳に真面目に答えるのもな、なんて思い、曖昧に笑う。次なんてないけど、わざわざ暗くなるようなことを話す必要はない。
「クレアちゃん、好きな子がいるの?」
楽しげな顔に少しだけ呆れる。
こういった話が女の子は好きなんだな。リリアもそうだったし仕方ない。
けど、そういう話題を私に求められても期待には応えられなくていつも困る。言葉に詰まった私をジッと見ている子たちに小さく返す。
「……いない、な。」
目線を逸らした私に「えー」と声が上がるが、本当なのだ。しょうがない。
「クレアちゃん綺麗だからモテると思うのに〜。」
小さく呟かれた拗ねたような声に一瞬、カイネルの求婚を思い出してギクリと肩が揺れる。
「分かる!強そうで憧れるよね!」
「お嬢様っぽくないけど、逆にそれがいいよね!」
よく分からないが、思っていたより好意的に受け取られていることに少しだけ驚く。
「うんうん!話しやすいし、笑うと可愛い!」
「……笑ってる?」
ふと聞こえた言葉に疑問を返すと、元気よく「うん!」と返事が来る。
「お花を眺めてる時とか!」
そっと自分の顔に手を当てる。
意識したことなどなかったが、周りからはそう見えているようだ。
「そうか……。」
少しだけ俯いた私に、落ち込んだと思ったのか小さな手が伸びてくる。私の冷たい手をぎゅっと握って笑っている顔を見つめた。
「大丈夫だよ!クレアちゃんのこと分かってくれる人はたくさんいるよ。」
純粋な励ましの言葉にほんの少し鼓動が跳ねた気がした。
「うん、ありがとう。」
無表情で答えた私に元気よく「どういたしまして!」と見上げた頭をそっと撫でた。
自分自身ですら、自分のことがよく分からない。
深く考え込みそうになって、まぁいいやと思考を払った。賑やかな笑い声が孤児院の庭に響いて、爽やかな風に消えていった。




