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ものぐさ令嬢は永遠なんて信じない  作者: 海瑠トワ
第二章 休息

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第15話

 涼しい朝の風を感じて伸びをする。

 昨日は馬車の旅の疲れで早めに床についた。


 やはりのんびり進んだとはいえ、体を動かせない状況というものは体が訛ってしまいそうだ。本当は思いっきり運動したい気分ではあったのだが、騎士たちの訓練に参加させてもらうのは流石に気が引けた。


 いくら私が竜人とはいえ、公爵令嬢だ。

 気を遣わせてしまうだろう。


「お嬢様、相変わらず朝早いですね。」


 通りすがりの使用人たちに声をかけられ「まぁね」と返す。ここの使用人たちは昔から仕えてくれている者が多く、皆家族みたいなものなのだ。


 王都の屋敷では魔法を控えていたが、ここでは気にする必要もなく、私も割とのびのびと生活出来る。

 皆が交してくれた誓約書。そのおかげだ。


 私が生まれた当初。お父様たちは直ぐに箝口令を敷いた。私の世話を一部の者に限定し、徹底的に姿を隠したそうだ。

 だが、それにも限界がある。

 だからこそ、この屋敷で働く者に制限をかけた。


 話せなくなるのは『私に関すること』のみ。雇用する際に説明しているはずなので、理解していない者はいないと思う。


 庭の花を眺めフラフラと歩く。

 令嬢らしくない私だが、花は好きだった。


 季節の移ろいを感じさせる花たちは、私がその瞬間に生きていることを実感することが出来る。


 隣で私の部屋に飾る花を選んでいるリリアを眺め、ふと、思い出す。


 ――いつか世界中の花を見てみたいのです。


 幼い頃、花を見ながら何気なくそう呟いた。

 相手は少し驚いたように私を見て、無邪気に笑った。


 ――ぜひ、一緒に見たいです。


 そう、誰かと話したような気もするが、その願いはきっと叶わないだろう。私はあの瞬間、なんて答えたのか、相手が誰だったのか、もう覚えていない。

 おそらく、曖昧な返事をしたのではないか。


「一緒に、か……。」


「どうしました?」


 リリアに問いかけられ首を振る。


「いや、なんでもないよ。戻ろう。もうそろそろ朝食の時間だ。お兄様が待っているだろう。」


「あっ!そうでした!今日はチーズたっぷりのオムレツですよー!楽しみです。」


 ニコニコと上機嫌なリリアは朝からそれが楽しみだったようだ。


「たくさん食べるといい。」


 私の言葉に「はい!」と元気よく返した彼女に笑って屋敷に足を向けた。


 その日の午後。

 お兄様は朝食後に視察に向かい、私は一階の温室で読書をしていた。


 カチャ、という陶器の音に顔を上げると、ノーラというメイドと目が合う。紺色の髪をおさげにし、丸くした深緑の瞳が可愛らしい。


「も、申し訳ありません……っ!」


 何について謝っているのか分からず首を傾げた。


「私は何もされていないよ。そんなに緊張しなくてもいい。私は貴族らしくないからな。練習台だと思ってくれていいよ。」


「もう!お嬢様!そうじゃありませんって!」


 縮こまってしまったノーラの肩に手を置きながらリリアが声を上げた。


「ご自分がどれほど凄い存在か自覚がないなんて。」


「いや、流石にそれは理解してるよ。」


 竜人が貴重な存在だときちんと分かっている。

 私がそう恐れられる存在だということも。


「……はぁ、ノーラ!ちゃんと言わないとお嬢様には伝わらないわよ!」


「えぇ!?そ、そんな……。お、恐れ多いです……。」


 リリアに注意されノーラはブンブンと首を横に振った。


「いや、なんでも言ってくれ。私は昔からリリアに察しが悪いと言われる。」


 私の方を向いて固まってしまったノーラは、深呼吸するような仕草をしてぎゅっと胸の前で拳を握った。


「あっ!憧れていました!」


 予想外の言葉にポカンとしてしまった。


「そ、その!お話できて光栄です!」


 意気込んだ様子のノーラは、私を怖がっていた訳ではないらしい。


「まさか、伝説の存在とお話できるなんて、夢にも思っておりませんでした……!私、あのおとぎ話がすごく好きで好きで。いつも母に強請って読んでおりました!もちろんお嬢様は関係ないと分かっておりますが、竜人という種族に憧れておりまして――」


 ペラペラと饒舌に語り出したノーラに呆気にとられ、口を挟めなくなってしまった。


「ノーラ!!ストップ!」


「むぐっ……!」


 リリアに口を押さえられ、強制的に話を止められる。


「勢い良すぎだよ。流石にお嬢様もびっくりしてるから。」


 呆れたように注意される様子から、普段のノーラはこっちなのだと理解した。


「ふふっ、面白い子だね。」


 思わず笑ってしまえば、少し恥ずかしげに「光栄です……」と呟く。好きな物の話だと饒舌になってしまうタイプなのだろう。


「もっと話をしよう。ほら、二人とも座ってよ。」


 本を閉じてテーブルに置くと、二人もアイコンタクトを交わして静かに椅子に腰かけた。


 暖かい陽の光を浴びて、ノーラの心地よい話をリリアと共に聞いていた。

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