ep8 無償で与えられるもの
夜、出かけることが珍しかったのか、いろいろな店の前を通るたびにわざわざ店の前まで主人が出てきては俺に挨拶をしてくる。
そして、いつもお世話になっているから!っていう理由で魚、肉なども土産に持たされてしまった。
なんつー世界なんだ、ここは!?
ちょっと家の周りを出歩くつもりが、俺は酒瓶に魚、肉……と土産をたんと持たされて自宅に帰ってきた。が、重てぇよ!!
「はぁっ、はぁっ……ちょ、誰か!来て、手伝ってくれ!!」
俺は、土産の品を玄関先に置きながら荒くなった息を整えつつ、家の中に向かって声をかけた。こうすれば誰かどうかが顔を出してくれるだろう。ほら、足音が聞こえてくる。この足音はジイさんじゃなさそうだ。強面の三人のいずれか……だな。
「おけぇりなさい!若!って、なんですかぃ?こりゃ?」
「……も、貰った……つか、重てぇよ!……はぁっ、はぁっ……」
一番先に顔を出してくれたのは、強面の中にいるなかでも一番年上っぽい感じがするケンさんだった。俺が思うに、シンさんが一番年下っぽいか?んで、次にテツさん。そしてケンさんって感じで年上っぽい気がするんだよな。でも、やっぱり俺よりかは全然年上っぽくて、三人が俺に向かって敬語っぽい口調で話してくるのは違和感がはんぱねぇんだけど……それは、家柄の都合ってヤツかねぇ?
「土産ってことですかぃ?それにしても……あっちこっちから貰ったもんですねぇ……!」
「あ、この酒は昼間助けた酒屋の娘さんからだってさ。すげぇ感謝されてたけれど……そんなに感謝されるようなこと、したのかな?俺……」
「なーに言ってんですか。だってその場で泥棒を取り押さえたんでしょ?大手柄ってヤツですよぉ!」
「そ、そっか……」
でも、ただ奪われたモノを捕り返しただけ。それなのに、こんな立派な酒を貰えるなんて……それに、こっちは酒代の金なんてもちろん支払っていない。財布なんか持たずに外に出ちまったもんな。そういうのって、悪いんじゃないのか?
「……えっと、一応みんなからは土産だっつって渡されたんだけどさ……やっぱ金、払うべきだと思うんだけれど……」
「はは!確かに!でも、ウチらはきちんと義理には義理でお返ししてるんで問題ないですぜ?」
「……義理?」
「へぃ!ここらで悪さしている不良やらチンピラ風情やらが暴れないように見回っているのも仕事の一つですからねぇ。ちょっと前には商店街には不良が多くて、あちこちに落書きも多かったんですが、それらを消して、不良たちにちょっーとずつ制裁を加えたらすーっかり大人しくなった……って、アレ?これ前にも話しませんでした?」
「あ、うん。えっと……改めて聞いておくのも大事かなぁ……ってな」
それからは玄関でのケンさんと俺とのやり取りを聞きつけたらしい、テツさんやシンさんも加わって俺が貰ってきた土産について大喜びしたり、商店街のみなさんには感謝しなきゃいけないっすね!と満面の笑顔をそれぞれ向けてくれた。
あー、いや、だから、タダで貰っても良いのかよ?
「おお、お帰り。……こりゃまた、大荷物だったじゃねぇか。一人で運んで来たんだろう?お疲れさんだったな、彰人」
「ホントホント、疲れたぜ。……でも、ホントに金は払わないのか?こんなにたくさん……それって、相手に悪いっつーか……なんつーか……」
「はは!彰人がそう考えてくれるだけで先方は嬉しがってるだろうよ。これらは後日、有難くいただくことにしようか」
『お、魚は鯛ですぜ!』『肉も上等なモノじゃないっすか!』と強面の三人たちは大興奮。ジイさんも、まだ息が整わずに、はぁはぁ言っている俺をお疲れさん、と言いながら『よく頑張ったなぁ』と労ってくれた。
俺は、めっっっちゃくちゃ疲れた。あー、走って、ちょっと散歩してきただけだっていうのに疲れた。でも、そのおかげでいろんな店の人たちに出会って、挨拶して、土産まで貰えて、今では家族たちがみんな嬉しそうな顔をしている。……一応、良いことをしたかな……なんて気持ちになってしまった。相変わらず体力皆無の俺の体にはムカついているけれどな!
「彰人も疲れただろうから、早く風呂に入らないと明日が大変だぞ?明日はお爺ちゃんと一緒に会合に行くんだからなぁ。まさか全身筋肉痛で行くことができな~い、なんて言うなよぉ?」
「ぐっ……今日は、早く寝るっての!」
いや、そうは言っても絶対明日、体のどっかが筋肉痛で悲鳴を上げそうだよなあ。この怠けた体がイラつく!なんでもっと普段から運動してなかったんだよ、コイツは!
それからは着替えを片手にうろうろしていると(風呂場が何処か分かんなかった)親切なテツさんが風呂場はあっちですぜ!と教えてくれるものだからその通りに進んで、一軒家にしてはだいぶ広さがある風呂場にびっくりしつつ、これが風呂かぁ~と全身を包むお湯の温かさに和みながらしばらく入浴の楽しさを知った。
魔王だった頃なんて入浴っつーか、ほとんどシャワーで体を流す程度だったから、浴槽なんてモノを使ったことなんて無かった。浴槽にお湯をはって体を沈めるってこんなに気持ち良いことだったんだなあ!風呂にハマりそう!
「お~い、彰人!あまり長湯して、のぼせたりするんじゃないぞぉ?」
ドア一枚を隔てたところからジイさんの声が聞こえてきたものだから、のんびりと寛いでいた俺だったが慌てて姿勢を正し(湯舟の中で)た。
「わ、分かってるって!すぐに上がるっての!」
う~ん、ジイさんも強面三人組も俺のことめちゃくちゃ気を遣ってくれている?もしかして、俺が元のコイツとは違うってバレたのか?……いや、そんなボロは出していないはずだし……とすると、元々俺はみんなに気を遣われてばかりいるような男だったんだろうか。
事あるごとに、誰かが近くにやってきて面倒をみてくれたり、楽しく談笑して過ごす。別に悪いってわけじゃないけれど、ちょっと俺に対して甘くねぇか?任侠の世界なんだろ?だったら、もっと手厳しくしてくれても良いと思うんだけどなぁ……。
ちょっと風呂の快適さに名残惜しい気持ちになりながらも風呂を上がり、ホカホカと体が温かい状態で自室に戻れば嫌でも目に付くのはコイツが楽しんでいたとされている本やらゲームの類。こんなものの何処が面白いんだか。未だに疑問だ。つか、こういうのって処分ってどうやるんだ?普通にゴミに出せば良いのか?
……今度、誰かに相談してみることにするか。
まあ、明日は会合とやらがあるだろうし、さらにいろいろな人との出会いがあるんだろう。任侠とやらについても詳しく知ることができる良い機会になるかもしれない。そして、この一家がどんなことをして過ごしているのか……見定めてやる。俺みたいなぐうたらな男を若として慕っているヤツらがいるんだ。だったら、若としてビシッ!としっかりキメてこようじゃないか。あ?挨拶とか、これからいっそう世話になるだろう人たちに向けての挨拶をキメるって意味に決まってんだろ。
まだまだこの世界にも、この家族にも慣れない部分はあるものの、こんなに良い人たちに囲まれて過ごしていたコイツが、少しだけ羨ましくも感じていた。何もしないのに、贅沢な暮らしをしていたなんて……自分が恥ずかしいと思ったことはなかったんだろうか?と思いながら布団に潜り込んだ。
昼間も夜も走りに行ってきたし、夜は重い土産をたくさん抱えて帰ったこともあったし、今は風呂上り。眠気というものはすぐにおとずれて、すぐにスヤスヤと寝息を立てて寝入ってしまった。
一家、もちろん舎弟のヤツらは昼間は、それぞれのお仕事をしているので、もちろん商店街のみなさんからは慕われています。が、彰人の場合は少し違うかも……?彰人っていう人間の存在は知っていてもなかなかお目にかけない彰人が泥棒をひっ捕らえてから一気に注目しだしたって感じがしますね、やるじゃん!
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