ep4 体力が無え
だいたいみんな同じぐらいの時間に食べ終わって……強面のヤツらは、何処かに行った。
ジイさんは……のんびりと茶を飲んでいるみたいだし……何なんだこの家?
「……動きやすい、服……。っと、だから何なんだこの部屋は!」
『そう言えば若が欲しがっていたゲームが発売らしいっすね!買いに行ってきやす!』『あ、漫画の新刊が出たみたいっすよ、ついでに買ってきますんで!』……と強面のヤツらは主に俺のために買い物に出掛けて行ったらしい。すると、この俺の部屋中に散らばっているものたちは……『ゲーム』そして『漫画』らしいな。つか、こんなにいらねえだろ!
「……取り敢えず片付けるか」
棚みたいなものはあるし、あちこちにモノを収納できるものはあるから端から端へと『ゲーム』『漫画』を片付けていった。やっと床が見られるようになると棚や収納はパンパンになった。
「こんなモンばっかに囲まれて生活してやがるのかよ。……こんなゲームとやらばっかりしているから体が弱そうなんじゃねえか?」
あらかた部屋が片付くと改めて自分の体をチェック。
もちろん魔法の類が出せるかどうかは試した。だが、魔力そのものをこの世界に感じない。特殊な環境か何かなんだろうか。魔力の元になるエネルギーが無ければ魔法なんて使えるはずがない。そして、コイツの体は弱っちい。力も弱そうだ。こんなんじゃいざって時があったとしても自分の身さえ守ることができないだろう。なんて情けない体だ。
つか、俺もなんでこんなヤツの体に転生したのだろうか。生まれ変わり……ってワケじゃないよな。既にこの『彰人』ってヤツは存在していて、なんとも情けない日常を過ごしているみたいだ。その中身……魂とやらが俺と入れ替わったのか、それとも『彰人』の中身が何らかの影響で死んだか眠ったのかして俺の魂が入ってしまった……という方が可能性が高そうだ。
ほとんどが初めて目にするものばかりで戸惑いが多い。だが、一つ一つ落ち着いて理解していけばそう慌てることはなさそうだ。
ここは、『日本』っていう国。世界中において小さな島国だそうだ。周りは海に囲まれているそうだが、残念ながらこの家からはその海っていうものは見られないらしい。
そして、『ゲーム』やら『漫画』やらといった娯楽がとにかく多い所だということだ。他にも俺ぐらいの年頃がずっと遊んで時間を過ごすことができる施設もあるらしい。が、特にそんなところには用は無い。
この家のことについては、あやふやな部分が多い。
珍しい装備(刀)が飾られていること、そして両親が亡くなっているということは分かった。そして自分の名前や生い立ちも。
八神彰人。職業は高校生。学校っていうところに行って勉強をすることが第一の仕事……らしいが、あまりコイツは学校には行ってなさそうな気がする。勉強か……もしかして、魔法についての勉強も学べるんだろうか。
俺……っつーか、彰人は、小さな頃に両親を事故で亡くしているらしい。その事故っていうのはあまり誰も話したがらないので深くは聞けないが、そのうちそれとなく聞き出すつもりだ。両親を失った俺にも一応身内っていう存在がいたようで、ここの家で今まで育てられている。
会合だの、義理だのって言葉が食事中には飛び交っていたが全然何の話をしているか分からん。会合っていうからには、何かの集まりだろうな。明日、それに俺も同行するらしい。どんなヤツが集まるのか、それを目にすればどんな家柄なのかってことも判明するだろう。
「よし。ここも片付けたし。走りに行くか」
ここがどういう所かってことも知りたい。それに何より、この体力皆無な体を何とかしたかった。ちょうど動きやすそうな服(ジャージって言うらしい)を見つけたのでそれに着替えると、一応ランニングをするために外に出るため一応挨拶をするため家の中を歩き回った。
無駄に広くねえか?この家。ジイさんと俺と強面集団三人ぐらいしかいないはずだよな。
「お。ジャージ姿になって……本当に走りに行くのか?」
「あ、あぁ。散歩ついでに……あと、ジイさん……!ジイさんは、ここで何してるんだ?他のヤツらは出掛けたんだよな?」
俺がそうたずねると不思議そうな顔をしたジイさんだったが、『はは!』と笑って茶を飲みながら冊子……新聞を広げている。
「お爺ちゃんはコレが日課だからなぁ。世の情勢を知り、どんなことが起きているか、どんな事件が起きているのか……ちゃんと頭に入れる。それも大切なことだからなぁ」
なるほど。世界のことを知るのは、あの『新聞』とやらに目を通すのも良さそうだ。
「じゃあ、ちょっと走りに行ってくる」
「おお、気を付けてな」
えーっと俺の靴は……この、少し汚れた靴が俺のだろうか。サイズは合ってる。まあ間違えて他の誰かの靴だったとしたら後で謝ればいいか。
さて、外の探索もといランニングだ!
……と、思っていたのだが。
「ぜぇっ、はぁ……はぁっ……な、んだ……この、体……やっぱ、全然、体力……無え!」
家を出るとそこそこに立派な門があることに気が付いた。門と家屋の間にはちょっとした庭みたいになっていて、見たこともない植物が綺麗に整われて植えてある。
すげぇ……。
って、そんなことより!
どのぐらい走ったのだろうか。いや、全然走れていない。まだ家から離れて数十メートルぐらいしか移動していないはずなのに、もう息が上がっている。後ろを振り返れば出てきた家の敷地がまだ見えているから距離的には全然走れていない。
「この、だらしねえ……っ、こんな体に……俺は、入ったのかよ!」
途中途中、止まって息を整えては、再び足を走らせるもののすぐに息が上がってしまう。額から流れてくる汗もうざい!
散歩だろうか、買い物だろうか、道行く人たちに『あら、若!こんにちは!』『若!珍しい、ランニング?』と声を掛けられると自分のことか、と慌てて『こんちはっす!』と挨拶をし返していった。
『若』?確か、家にいたヤツらも俺のことは名前では呼ばずに『若』って呼んでいたよな。それって何だ?あだ名みたいなものだろうか。う~ん……とにかく、情報が足りん!
呼吸をぜぇぜぇ、と乱しながら仕方なくしばらく徒歩で歩きまわってみるか、とゆっくり周りを見てどんな場所なのかチェックしていくことにした。
「町……だよな。でも、なんつーか、広いな……」
何処までも広がっている町の風景に思わず感激してしまう。ここまで広い町なんて滅多になかったからな。俺がいた世界ではぐるりと軽く一周してしまえば町の端から端まで移動できてしまうほどの敷地が狭い町ばかり。そして町の外は荒野だったり、森や林。当然、魔物も住んでいるから基本的にその町の住人たちはその町でのみで暮らしていく。だから世には冒険者だとか勇者を目指す若者がいたんだが……はぁ、もういいか。前の世界のことは。
さて、だいたい近場はチェックできたし、一旦家に戻るか……と方向を変えたときだった。
「キャーッ!!泥棒!誰か!!」
なに!
何処だ!と声の主を探して視線をあちこち動かせば道に座り込んでしまっている女の姿が。慌てて駆け寄ると『何があった!』と問い掛ける。
「ば、バッグが!お財布も入っているんです!あ、あの人!」
視線を先に向けるとこの女のモノらしきバッグを持ってひたすらに逃げている姿だ。泥棒だと……気に食わねえ!
「俺が捕まえてくる!任せろ!」
そう女につげた俺は、じゃっかんガクガクしている膝なんて無視して泥棒の野郎の姿を追った。すると何やら道の途中で止まっているじゃないか。大チャンス!とばかりに野郎の腕を掴むと捻り上げてやった。
「いだだだ!」
「こんの泥棒野郎が!そのバッグを返しやがれ!」
なぜ道の途中で泥棒野郎が止まっていたのか、それはどうやら『信号』が『赤』で止まっていたらしい。その事実を知ったのは後だったのだが、いちいちそんな理由で止まっていたなんて笑える話だ。そんなモノ無視して走り抜ければ良かったのに……。が、目の前は交通量が多い道だった。多くの『車』が走り、とてもじゃないがこのまま走り抜けていたら『車』に轢かれて死んでいただろう。
まだまだ現代には魔王の知らないことばかり。
でも、決してバカな魔王ではないので一つ一つ知識として詰め込んでいけば大丈夫でしょう!
さて……体力皆無のくせに、魔王のくせに(中身は)泥棒を捕まえてしまいましたねぇ!やるじゃない!!
現代に逆転生してしまった魔王、これからどんな生活を送るんでしょうか!?良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!そして全ての読者様に愛と感謝をお届けしていきますよ!