ep2 やべ、何か壊した
まさか、あんなへんてこりんパーティーにヤられるなんて思わなかった。
適当に蹴散らしてやれば逃げるだろう……そう、思っていたのが間違いだったのか。
でも、これであの修道女は生きて帰れる、はず……だよな。
魔王は倒された。
それは、突如あらわれた、へんてこりんな勇者パーティーによって。
これで、世界は平和になっていくのだった……って、んなワケあるかボケェ!だいたい俺は人間たちに悪さなんかしたことねぇよ!気が合う魔物たちを城に集めて、どんちゃん騒ぎをして過ごしていたぐらいだ。なのに、なんでへんてこりんな勇者もどきに倒されなきゃならねえんだ!
だいたい、魔王は一人!だったら勇者も一人で、かかって来いよ!なんで勇者は平然と当たり前のようにパーティーなんてモンを組んでんだ!?俺にもパーティー組ませろ!勇者だって男だろうが!さっきかかってきたのは男だ!男なら、タイマン!一対一で戦ってみろ!ちょーっと修道女のことを気にかけてやっていたら背中からグサリ……だなんて卑怯にも程があるだろうが!
くそっ、今度会ったら勇者にはパーティーなんて組ませねえ!勇者も一人でかかってこい!
俺が、また魔王として生まれ変わったら……あの、勇者もどき……ぜってぇぶん殴ってやるっ!!!
ジリリリリリリ
ジリリリリリリッ!!
な、なんだ……?うるせぇ……っ……
ジリリリリリリ
ジリリリリリリッ!!!
「うるせえっつってんだろうが!!」
音の正体が何なのか分からないまま片手を伸ばして叩いてやった。すると途端に静かになるから一体何だったんだ?と目を開ける。
目を、開ける?
な、なんだ?手を伸ばせば、ジャンプすれば簡単に届いてしまいそうな低い天井。それにシャンデリアみたいな照明があるわけじゃない。な、なんだありゃ?あの、しょぼそうなものが照明か?
上半身を起こしてみると……なんだ、これ。床に寝かされていたのか、俺は?
これは、布団……だよな。
「あ、『若』!今日はお早いお目覚めなんですね!おはようございます!!」
いや、誰だよ、お前。
「いつもは目覚まし時計を止めて、二度寝しちゃうじゃないですか!今日は起きてるなんて凄いじゃないですか!」
目覚まし、時計……さっきまでうるさかったヤツか。そう言えば手に何か当たったような気がしたんだが……。
あ。
俺の手の勢いが強すぎたのか、それとも目覚まし時計とやらが脆かったのか……元目覚まし時計だったヤツはヒビが入って……壊したか?
「あちゃ~……やっちゃいましたね。まあ、目覚まし時計の一つや二つぐらいまた買ってきますんで、ご心配無く!」
えーっと……俺、死んだんじゃなかったのか?あの、へんてこりんなパーティーたちに。
「今日は学校は、どうします?行けますかぃ?」
「学校?あー……っと、ちょっと腹の具合が……」
「え、そうなんですか!?おやっさんに知らせて来ます!『若』はそのままで!」
そう言うと、ちょっと強面そうな男……人間、だよな。そいつは足早に立ち去って行った。
つか、なんなんだここは!?
俺は、なんで生きてる!?
いや、生きてるって言っていいのか、これ!?
これは、こいつの体はどう見たって……人間!
魔王だったときの俺にあったはずの魔力は全く感じない。あ、アレは鏡か……?
「って、なんだこりゃーっ!?」
布団から抜け出し、鏡の前に立つと、鏡に映った姿に絶叫を上げた。
なんだ、このひ弱そうな体は!別に、どっかのデブみたいに、ぷよぷよしているとかって問題じゃねえ!腕も足も細っこい!こんなんじゃ風が吹いただけで吹き飛ばされるんじゃねえか!?
「『若』!?どうしやした!?」
さっきのヤツとはまた違う、強面の人間。
身内……なのか?このひ弱そうな体の持ち主の!?
「あ、あぁ……いや、悪い。何でもねえよ……」
「……わ、『若』?ね、熱でもありやすか?」
「はあ!?」
「『若』の口から、悪いだなんて言葉が出るなんて……あ、いえ!なんでもありやせん!失礼しやす!」
な、なんなんだ?
ソイツもまた、頭を下げて立ち去って行った。
どうなってる?つか、俺はどうなったんだ?
あのとき、確かに背中から剣がぶっ刺さって……死んだ、よな。んで、目が覚めたら……人間?人間として生まれ変わったのか?いやいや、俺、魔王だったんだぞ!?なんで人間に生まれ変わるんだ!?つか、こんな生まれ変わりの仕方なんて聞いたことねえぞ。
改めて、これからどうするか……って、考える前に……。
「なんだ、この部屋……」
本……こっちは、なんだ?何かの機械か?装備品の一種だろうか。それに似たような形のパッケージがいくつも部屋中に散らばっている。なんだ、これ。無駄に多すぎだろ。
はぁー……と深い溜め息を吐いているときだった。
「どうした。朝からそんな溜め息なんか吐いて。腹の具合が悪いんじゃなかったか?」
さっき姿を見せた二人とは明らかに歳が違う。
ゆったりとした衣服に身を包んでいて……漂う雰囲気は、普通のジジイ?
「えーっと……いや、何か夢を見てたみたいでさ。……寝惚けてんのかな……俺は、死んだはずなのに……こんな所にいて……しかも、何処だか分からねえんだ」
「おぉ、それは大変だな。取り敢えず、食事は?食えそうか?」
「食事……あ、うん。もらう」
そのジイさんは、軽快に笑い声を上げながら『なら、食事にしようか』と言って何処かに向かおうとするから俺も慌てて後についていった。
廊下……も、もちろん狭い。壁も古そうだ。年式が入っている建物なんだろうか。歩くたびにたまに床がギシギシ鳴るが……床が抜けたりしないんだろうか?このジイさんは普通に歩いているが。
俺がいた部屋よりも一回りも二回りも広そうな場に着くと途端に良い匂いが漂ってきた。これが食事の匂いになるのか。湯気が立っている食事の前に座ろうとするがジイさんはそれよりも先に違う場所へ向かった。何をする?と気になった俺はジイさんに続いていくと……見たことのない二人の写真が。そして供物が置かれている。……死人か?
「さ、お前さんも。こんな時間に起きてくるのは久しぶりだろう?たまには二人に挨拶でもしてやるんだ」
「え。あ、うん……」
確か、ジイさんは……コレを手にして、近くの蝋燭から火を取って突き刺していたよな。
煙が立つ。独特な匂いが鼻につく。
写真の人物たちは……俺とゆかりのある人物たちなのだろうか。
「はは!久しぶりだからお前さんの両親もびっくりしているだろうよ。早起きするなんて明日はもしかしたら雪かもって笑っているかもしれんな」
両親!?
この二人が……つか、俺……この体の持ち主の両親は死んでいるのかよ。まだ若そうなのに。
「さ、挨拶も済ませたことだし。食事にしようか」
再び食事が並ぶ低いテーブル……のそばに置かれている布団に腰を下ろすとぽかーんと目の前の食事を見入ってしまった。これが、人間たちの食事……。つか、良い匂いがする。
すると続々と強面の人間たちが顔を出した。この量……五人分か?さっき顔を見せた二人に、新たに一人のおっさんがあらわれると席に着いた。
「あ。『若』には、いつものヤツをご用意した方が良いっすかね?」
「いつもの?」
「コーラっすよ、コーラ!朝からコイツが無いと起きられないって言ってるじゃないっすか」
はい、とコップに注がれた黒い液体をじっと見てから口にしてみる……が!
「あまっ!!!い、いや、いい!今朝は、いらん!」
「「「へ!?」」」
「珍しいこともあるもんだ。なら、今朝はきちんと食事を残さずに食べようか」
な、なんだったんだ、さっきの液体。甘すぎる!あんなモノを毎朝飲んでたのか、この体は!!
「……全ての命に、恵みに感謝して……いただきます!」
「「「いただきます!!」」」
「……いただきます……」
現代日本への転生。逆転生。と私は呼んでいるのですが、普通の逆転生じゃつまらん……と思っていたときに、ちょっと変わった一家に転生させよう!と考えてみました!どんな一家なのでしょうね。
いろいろ初めてなことばかりですが、どうなるのでしょうか!?
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