ep17 告白
ガキどもって寄ってたかってイジめることしか出来ねえのかよ。
なっさけねえなあ。
へとへとになりながら帰ると自分の部屋にあった悪戯書きされていたノート類は即刻捨てた。あんなモノ置いていても良いことなんか一つも無いからな。だいたい彰人のヤツは、あんなノートを後生大事に持っていたってことかよ?なんでだ?まさか、『これがイジめの事実です!』とかって言って突きつけようとでも考えていたのだろうか。ったく、イジめをするヤツらもバカだとは思うが、もしも彰人がそう考えていたのならば彰人もバカなのかもしれない。教科書はパラパラと捲ってチェックするが、特には変わったところは無さそうだな。教科書にも何か書かれていたらさすがに処分しようかどうか迷ったところだったけれど、教科書は無事って……一体どういうヤツらだ?徹底的にヤるなら教科書だって無事では済まないものだろう?それがノートはめちゃくちゃ。教科書は、ほぼ無事……ってなんなんだよ。
「あれ、若?これ……捨てちゃうんですかぃ?」
「あ。テツさん。……あぁ、ちょいと邪魔になったからさ」
「え。でも、コレって学校で使うモンなんじゃあ……?」
「良いんだよ。……つか、テツさんたちってさ俺が学校行かなくなってからの話って何か聞いてたりしてたっけ?」
「いや、特には。休みがちだってことも無かったですし、急に行かなくなっちまったんですよねぇ……って、若も忘れちまいましたか?」
「あ、あぁ。最近のことも忘れることが多くてさー……はは、俺も歳かなー、なんて」
ついつい笑って誤魔化してしまったものの俺は彰人が学校に行かなくなった時期を知らない。いつから行かなくなってしまったのか、それこそ、何で学校に行かなくなってしまっていたのかなんてたまたまノートとか教科書を目にしたからようやく納得できたところだった。たぶん、テツさんの話だとジイさんも俺が学校を休んでいる理由っていうのは知らないんだと思う。どう、話したもんか……それとも、このまま言わないでおくべきか……。できることなら、ウチのヤツらにはあんまり心配は掛けたくないと考えている。だって、そんなことしてみろ。きっと強面のウチのヤツらは学校にでも乗り込んで行ったりするんじゃねえか?それか、俺をイジめていたヤツらを片っ端から声を掛けてガンでも飛ばすんじゃねえか?それだけは止めてほしい。
ジイさんならどうするんだろう。学校に乗り込んで教師たちにイジメがあったっていう事実を突きつけて脅したりとかするんだろうか。でも、あのジイさんだぞ?あの温和そうなジイさんがそんなことをするだろうか……想像がつかん。
「あ。そうそう、若。おやっさんがお呼びでしたよ」
「……ジイさんが?」
あぁ、テツさんが来たのはその用事があったからだったのか。だったらすぐに行こう。机にあるモノを処分するのはいつでも時間があるから後でも良いや。
ジイさんはいつものように広間にて新聞を広げてお茶を飲んでいた。いっつも思うけれど、ジイさんってのどかだよなあ。三上さんの家に行ったとき、多くの強面のおっさんたちから一斉に挨拶を受けていたジイさんだったが、つまりはああいう強面のトップにいるのがウチのジイさんってことだろ?ジイさんが強面の連中と同じ……想像がつかないんだよなあ。
「ジイさん?どうした?」
「おお。来た来た。お前さんが最近ランニングに夢中になっているだろう?一体どうしたかと思ってなぁ」
「どうしたって言われても……俺って体力皆無だろ?んでもって、ぐうたらじゃねえか。だからまずは体力でも付けようかなって思って……」
「本当にそれだけか?」
「は?」
「いやなに、お前さんが本当に体を鍛えるつもりで朝夕欠かさずに走りに行っているんだったら素直に褒めてやるさ。ただなぁ……何年家族をやっていると思っているんだ?以前のお前とは似ても似つかんだろう。……何か、ワケでもあるんじゃねぇのか?」
家族、と言われたとき思わずぎくっとしてしまった。俺はちゃんと笑えているだろうか。いや、うん。大丈夫。笑えてるって。いつものように。
「ワケなんて別に?」
「外に出ろ出ろって言われても出なかったヤツがいきなりランニングって……考えられないだろう?」
「うぅ……っ……」
「お爺ちゃんの目を見て、しっかり何も無いと言えるか?彰人。……お前、何か隠しているんじゃないのか?」
真っすぐに俺を見てくるジイさんの目はいつものように穏やかだ。でも、真っすぐすぎて俺としては気まずい。だって、彰人の体に急に入って来たのは魔王だなんて話したところでジイさんは素直に信じるのか?はは!って笑われるだけじゃねえのかよ。また、ゲームとかの話か?とかって終わるんじゃねえのか?彰人はゲームとかが好きだったっぽいし。それに、俺にだってどう説明するべきか分かんねえんだっての。こんな中途半端なところで上手く説明なんて出来るはずがねえよ。でも……もしも、ジイさんなら……俺の言葉を、きちんと受け止めてくれるんだろうか。
「……あ、あのさ。……これから言うことは本当のことなんだ。たぶん、テツさんたちからすると頭がおかしくなったって言われるかもしれねえ。でも、俺がここにいることが事実なんだ。……ジイさん、これから話すこと、信じてくれるか?」
「……あぁ。お前さんが、嘘偽り無く話してくれることならお爺ちゃんは信じるさ。お前のお爺ちゃんだからな」
……よし。とにかくジイさんを信じるしかねえ。
「まず、俺は彰人ってヤツじゃねえんだ。……別の世界って言うのが正しいのか、ちょっとまだ分かんねえんだけれどさ、俺がいたところでは俺は魔王として過ごしていたんだ。ただ、ある日。勇者が現れて俺は倒された。死んだかと思っていたんだ。だけれど、目を開けたら……この体に、彰人っていうヤツの体の中に入っちまってた。俺がコイツの中に入ったってことで、コイツの中身……みたいなものが何処に行ったのかは分からない。だからきっと何かあれば元のコイツの中身も戻って来ると思うんだ。……今まで黙っててごめん……でも、こんな話、信じられないよな……」
言えることは言ったつもりだ。実際に起きたことだし。俺が魔王だなんてジイさんからすれば『なんだそれ』って思われるかもしれない。でも、足の上に置いていた俺の手はいつの間にかぎゅっと力いっぱいに握りしめていて、ある程度言い終わったときにはきゅっと唇も噛み締めていた。それは、バカにされることを受け止める覚悟のあらわれだったのかもしれない。魔王だなんて普通のヤツは信じない。バカにされる、夢でも見ているって言われるに違いない。だから、ジイさんからからかわれるような言葉が向けられても笑って応えられるように俺なりに必死だったんだと思う。
ふと、俺の頭に大きな手が乗せられた。コレはジイさんの手だ。もう何度も撫でられているから分かる。この大きな手はジイさんの温かい手だ。自然と顔を上げるとジイさんは『ありがとな』と笑ってくれた。からかわないのか?夢だとかって笑ったりしないのか?バカにしないのか?頭どうにかなったんじゃないのか?って心配しないのか?
「そうか……まさか、そういう事情があったとはなぁ。すぐに気が付いてやれなくてすまなかったなぁ、彰人。……っと、魔王って呼んだ方が良いのか?」
「あー、いや。紛らわしいから彰人って呼んでいい……っつか、ジイさんは俺の言うこと丸々信じるって言うのかよ!?」
「だってよぉ、本当のこと……なんだろう?本当のことをなんで疑わなきゃならないんだ?お前の言うことを信じるってお爺ちゃんは決めたんだ。なら、お前の言葉を信じなきゃ失礼にあたるってもんだろう?」
「……そ、そうだよな……はは……うん。なんつーか、ジイさんがジイさんで良かった……」
いつの間にか体に重くのしかかっていた緊張のようなものは何処かへ飛んで行ってしまったようで余計な体の力も抜けたし、俺とジイさんは二人して笑い合っていた。
『信じる』ってなかなかに難しいことです。それを簡単にできちゃうのが、お爺ちゃんなんですね!!凄いです!!感動します!!
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