ep16 小学生へ説く
彰人の秘密を知ってしまった。
なるほど……つまり、イジメられていたってわけか。
でも、それで良いのか?彰人ってヤツは何もかも諦めていたんじゃないだろうか……。
「ハァッ、ハアッ……ゼェッ、ハァッ……」
ちょっと前からは考えられないぐらいに距離を伸ばして走ることができるようになってきた俺の体。ようやく、少しは体力が付いてきたってところだろうか。でも、魔王だった頃の俺からすれば、まだまだだな。ちょーっと走っただけでこんなに息が上がるようじゃ、一般的な旅人にも体力は劣るだろう。レベルの低い旅人だって最弱の魔物ぐらいは倒せるぐらいの体力はあるもんだ。最弱の魔物が何かって聞かれるとちょっと答えに困るんだけれどよ……うーん、スライム、とかだろうか。でも、スライムの中にだってめちゃくちゃ防御力が強いヤツがいて、なかなか攻撃が通らないスライムだって俺の世界にはいたんだぜ?
あー、懐かしい。俺は気が付いたら、もう魔王っていう地位にいた。でも、ふんぞり返って下位の者たちを適当にあしらってきたことは一度も無い。人間だとしても魔物だとしても、俺に勇気を出して襲い掛かってきたり、腕試しのつもりで掛かってくるようなヤツがいればいくらでも相手をしてやっていた。そのほとんどが、タイマンだったんだよなあ。互いの拳だったり、相手が武器を持っていれば、当然こちら側も武器を持って一対一で戦っていた。どっちかが弱音を吐いたり、ギブアップをするまで戦いは続き、人間の中には俺への印象をガラリと変えたヤツなんかもいて、たまに魔王と人間が一緒になってバカ騒ぎをして王城で過ごすなんてこともしていたぐらいだ。種族とかって結局のところ、関係無いんだよな。大切なものは中身。ずる賢いヤツっていうのは俺がいた世界にも当然いた。だからその時には、さすがの俺もぶち切れ寸前のところまでいって魔王の持つ魔力で圧倒させてやることもしていたっけな~。懐かしいぜ、ホント。
つか、俺は本当にこのまま彰人の肉体に入ったままで過ごしていくんだろうか。それともあっちの世界に戻るってことは無いんだろうか。でも、そうすると元々この体の持ち主である彰人の中身は?一体どこに行っちまったんだろう?まさか、幽霊みたいにその辺をフラフラしていたりしないよな……。
「ハァーッ……っと、ここは……公園?あぁ、子どもが遊ぶ遊具があるなあ……ブランコっつったか」
俺ぐらいの歳でも乗って大丈夫だろうか。でも、見た目はそこそこ頑丈に出来ているっぽいし……と恐る恐るブランコに座ると、多少ギコギコと軋む音は聞こえてくるものの壊れたりはしないようだ。良かった……これを壊したりしたら近所迷惑どころじゃ済まなくなっちまうだろうなあ。
「……ん?あれは……子ども?」
Tシャツに半ズボンという恰好。そして、ランドセルを背負っているから俺よりも年下の学生……小学生って言ったか。そいつが、公園に置かれているゴミ箱の中をじっと見ている。……なんだ?ゴミ箱に何かあるんだろうか?
俺はそっとブランコを降りるとガキの所へと近付いて行く。
「おい。お前、そんな所で何してる?」
「!?」
「んー?ゴミ箱に何か入ってんのか?……あ?これ……学校で使う教科書じゃないのか?」
おもむろにゴミ箱から取り出したのは、小学生用の教科書と思われるモノ。しかし、あちこち破られていたり、土でも被っていたのか土埃だらけ。ささっと、土埃を払ってやるもののガキは静かに俺の手元を見上げている。もしかして……。
「……コレ、お前のか?」
「……っ……うん……」
少しばかり泣きそうになっているのか、それとも泣くことを我慢しているのか、ぎゅっと唇を噛み締めているガキに、土埃を払ってやった教科書を差し出す。しかし、ガキはいつまでたってもそれを受取ろうとする気配が無い。
「お前の、なんだろ?つか、なんでこんなところにあるんだよ」
「……ぼ、僕……弱いから、イジメられてて……」
あー……つまりは、彰人がさせられていたようなことをこのガキにもさせられていたってことか。ったく、最近のガキどもは。こうやって人様のモノにあたるようなことしか出来ないのか?正々堂々と正面からぶつかっていけば良いのに、それすらも出来ないようなガキばかりなのかよ。
「あのなあ……別にお前が弱いとか強いとかは関係無いだろ。イジメられるのは……心が弱いせいじゃないのか?」
「こ、ころ?」
「ああ。いいか。こうやって他人のモノをめちゃくちゃにするようなヤツらは、そもそも人間としてだらしねえヤツらだと思え。本当に強いヤツっていうのは、こんな卑怯な真似なんかしないでお前に正面からぶつかってくるもんなんだよ」
「……卑怯?」
「こうやってお前自身には手を出さずに、お前の物を壊したり、こうしてボロボロにさせることだ。……お前は何とも思わないのか?こんなことされて、悔しくねえのか?」
「……っ、く……悔しい……!」
「おお。そう思ったんなら、こういうことをしたヤツらに、そうやって大声で言ってやれ」
そう言うとガキはようやく俺の差し出していた教科書を持って、こくこくと大きく頷いていた。
「お、お兄ちゃんって……この辺の、人?」
「あー……知ってるか分からねえけれど、八神彰人って言うんだ、俺は」
「八神……聞いたことある!凄いみんなの力になってくれてるってお母さんが言ってた!」
「そ、そうなのか?」
さっきまでは今にも泣きそうになっていたというのに、俺が名乗った途端に目をキラキラと輝かせて俺に向かって『凄いね、凄いね!』と言ってきた。それ、俺が凄いんじゃなくて、きっと『八神』の俺の家族たちが凄いって意味なんじゃねえか?
「商店街のね!悪い人たちを追い出したんだって!みんな困ってたから凄い助かったって言っているよ!」
「……へぇ……」
悪い人、つまり不良とかチンピラたちのことだろうか。確か、商店街も不良たちに悪さされて困っていたときがあったって聞いたことがある。落書きの騒ぎも絶えなくて商店街の人たちもあまり強く注意することができていなかったところにウチの家族たちが牽制したんだったか?それで、今は不良やらもチンピラたちも大人しくなっちまったんだったか。……確かに、そりゃあ凄いよなあ。商店街の人たちからすればちょっとしたヒーローみたいなモンじゃないか?
「お兄ちゃんも八神さんだったんだね!ありがとう!僕、勇気出たよ!僕、明日思い切って言ってみる!一回でダメだったら二回でも、三回でも言ってみるから!」
「おお。んじゃ、約束。……そんなバカなことしてるヤツらなんかに負けんなよ」
俺が小指を立てて片手を差し出すとガキも小さな手で小指を立てれば俺の小指と絡めて約束を交わした。うんうん、この感じなら、きっとイジメをしていたヤツらに尻込みすることなんかなく勇気を出して言い負かしてやることだってできるかもしれない。
軽く手を振りながら走り去って行くガキを見送ると『あ、そう言えば……』と今更ながらになって気が付いた。
「名前。ガキの名前聞きそびれたな。……まあ、大丈夫だろ」
イジメをするのは、高校生でも小学生でも関係無いんだな……。つか、ガキの友達は?それこそ周りは何も言わなかったりしなかったんだろうか。ただ、イジメられている現場を目にしていても何も言わずにいたんだろうか……まったく。どいつもこいつも……イジメられているヤツにももちろん言いたいことはあるが、一番に文句を言ってやりたいのはイジメているヤツらだ。個人か複数かも分からないが、どうせ複数で群れをつくって個人をイジメているんだろう。だいたいイジメをするヤツらっていうのは個人では事を起こさないもんだ。結局は、弱いからだ。だから群れる。そして、個人を大勢でイジメていくんだ。
くそっ、ムカつく……。
走ってきて、ちょっとはスッキリした気分だったが、ガキのイジメを知ってまたもやむしゃくしゃしながら今度は自宅へ向かってダッシュで帰って行った。
魔王、子どもも助けちゃうのね!あ、そう言えば里香ちゃんのことも助けていたものね!やるじゃないの!!このこのぉ!
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