ep14 事故の真相
何故か帰りの車の中ではジイさんからめちゃくちゃ褒められた。
……え、俺なにかしたっけか?
「おやっさん?何か、めちゃくちゃ機嫌良いっすね!若、なにか知ってやすか?」
「さあ?」
車の中でも、ジイさんは俺の頭に手を伸ばしてきてぐしゃぐしゃと頭を撫でてきている。つか、撫で過ぎだろう。さっきもめちゃくちゃ撫でてきていたし。何かあったんだろうか。
「いやなに、彰人も知らないうちに大きくなっているもんだと思ってなあ!ちょっと前までだったら積極的になって他人に関わっていくことなんてしなかったヤツのくせに。いっちょ前に三上さんにまで認めてもらってデカくなったもんだよ、ホント」
「え、三上さんって……あの三上さんっすよね!?わ、若がですかぃ?」
「ああ。出迎えのみなさんにビビらずに挨拶までしに来たときにはお爺ちゃんの方がたまげたってモンよ」
「わ、若……熱でもあるんじゃ……?」
「は?熱なんかあるわけ無いっての」
なんだよ、二人して。でも、本来の彰人ってだらしない生活をおくっていたみたいだし、きっと気も弱かったんだろうなあ。ジイさんが言うには積極的にぐいぐい事を進めていく!って感じでもなさそうだし、俺とは似ても似つかない性格をしていたんだろう。まあ、俺……前の世界では魔王だったし?魔王が強面の連中ぐらいにビビるかよ。つか、さっきの集まりが会合ってヤツだったのか。途中で邪魔しちまった俺が言うのもなんだけれど、きちんと会合っつーモンは出来たんだろうか?
「ジイさん。会合ってのは無事に終わったのか?俺、もしかして邪魔しちまったか?」
「はは!無事に終わってたよ。彰人が来るときには談笑していたぐらいだからなあ。そうそう娘さんの里香ちゃんについてもちょこっとばかし話していたんだ。まさかその当人を連れてお前がやって来るとは思わなかったんだがなあ」
『ははは』と楽しそうに笑っているから、会合の邪魔にはならなかったらしい。正直、安心した。あ。でも、里香にはまた遊びに行くって約束しちまったんだったか。……うーん、それ、どうするかな。これで行かないなんて選択肢は無い。あんなに小さな子でも約束したら覚えているものだろう。だから、いつかはまた遊びに行ってやらないとなあ。
「三上さんのトコって言えば……確か、その奥さんだかが事故に巻き込まれたって話じゃなかったでしたっけ?」
「そういうことになっているらしいなあ……」
「なんだよ、その言い方。ジイさん、何か知っているのか?」
そういや、俺をあちこちに案内してくれた二人組たちも三上の奥さんが事故に遭って今は入院しているって言ってたっけ。……単なる怪我とかってだけじゃないのだろうか。
「事故は事故らしいんだが……その事故を起こした犯人ってのが見つかっていないらしくてなあ。しかも、車は乗り捨てられていたらしいんだがその車種が独特で……どうやらこの辺りのチンピラ辺りが起こした事故なんじゃないかって話もあがっているらしいんだ」
「……轢き逃げってヤツっすか……」
「気に入らねえな」
「それは今になってもまだ三上さんとこで今も犯人を捜しているらしいんだが、月日もだいぶ経っちまっているからもしかしたら難しいのかもしれんなあ……奥さんの状態も重症で、意識が戻っていないらしいんだ」
意識、不明!?えーっと、里香が今五歳……だから、ほとんど里香は母さんと喋ったことも声を聞いたことも無いってことかよ!?しかも犯人は逃げているだと?なんだ、それ。自分で起こした事故ならきちんと自分で責任持てって感じなのに。
俺は無意識のうちにイラ立っていたらしく、足の上に置いていた手をぎゅっと握りしめていた。当然、横に座っていたジイさんにそれを見つけられてしまったらしく、ぽんぽんと軽く俺の肩を叩かれてしまった。
「気持ちは分からないでもないが、お爺ちゃんたちが苛立っても、愚痴や文句を言っても……何も変わらないだろう?だったら一日でも早く、三上さんとこの奥方が目覚めるのを祈ることに考えを使った方が良いってものさ」
「……そ、そうだな……」
つっても、俺はその奥さんとやらに……里香の母さんがどんな人なのかは知らない。それらしい写真があったってわけでもないしな。でも、まだ生きている。意識不明ってことらしいが、まだ息はあるんだ。俺の両親みたいに亡くなっているわけじゃない。まだ、可能性はある。里香が待ってるんだぞ、早く目覚めてやれよ……と、車の中に乗りながら何処かで入院し、眠ったまま過ごしているであろう里香の母さんに向かって心の中で呟いていた。
「さて、お疲れ様でした!おやっさん、若!着きましたぜ!」
「ああ、ご苦労さんだったなケン」
「……ありがとうございました」
俺の礼は、車を運転してくれたことに対する礼でもあったのだけれど、今日の会合っつー集まりに俺も連れて行ってくれたジイさんにも向けた礼のつもりだった。だって、俺が行かなきゃ三上さんっていう人がどんな人なのかを知ることもできなかったし、里香とも出会えなかった。ちょこっとだけでも三上さんと話をすることで、これからはもう少しだけ娘の里香への対応も変わっていってくれると思う。最初はウチ以上に強面だらけのスーツ姿のおっさん連中に目を丸くしたものの、決して話が通じないような人たちってわけじゃなかったし、話してみると案外面白い人たちもいたので良い外出になったと思う。
「「あ!おけぇりなさい!おやっさん、若!!」」
「ただいま戻ったよ。シン、テツ。家で変わったことは?」
「いえいえ!特には何も!……それより、若……どうでした?」
「ん?いや、別に普通だった。里香っつー小っちゃい子がいたんだけれどさ、ちゃんとジイさんにも挨拶しに来たし、俺も三上さんに挨拶してきたし、みんな良い人だったと思うぜ?」
俺がそう言うとシンさんとテツさんは、二人で顔を見合わせてしまった。それから『ま、まじですかぃ!?何もありませんでしたか!?』と慌てて詰め寄ってくる。何をそんなに慌てているのか分からないのだけれど、少々人の数が多いってだけで別に普通の家庭だと思ったんだけどなあ。あ、ついでに言うと強面のおっさんばっかりだったってことを付けたしたい。
「……別に、ウチよりも大所帯なんだな~とは思ったけれどさ、怖い思いをしたとかそんなことは無かったし」
はは!魔王の俺をビビらせるなら、それ相応の力ってのを見せてくれないとなあ!だいたい、ただ人数が多いってだけじゃ一体、何にビビるんだっつの。あっちの世界には、たくさんの魔物たちもいたし、そんな魔物を狩る人間たちは毎日のようにたくさんいたんだ。そう考えるとここの暮らしっていうのは安全そのものって気がするんだよなあ。あ、でも里香の母さんって事故に遭ったんだっけ。ったく、どこのバカだ、そんなことしたのは。せめて名前……いや、人相ぐらいでも分かれば俺だって探すのを手伝ってやるっつーのに。
「なーんか、若。やっぱ変わりましたよねぇ?」
「同じく。ジャンク品には目も向けなくなったって言うか……真面目になったと言うか?」
「最近は、よく体も動かしているようですしねぇ……何かあったんですかぃ?」
ぎくっ
「あ、いやいや、別に?ただ、体力の無い自分の体に呆れただけだっての」
危ない危ない。そろそろ彰人本人じゃないってことがバレるだろうか。でも、見た目は変わっていない。中身だけが違うってことをどう証明する?言えば分かってもらえるんだろうか?そして彰人の中身は一体どこに行った?って騒ぎになるだろうしなあ……しばらくは、まだまだ説明しようが無いんだよな。
魔王は無自覚!(←無自覚って言葉良いね!)自覚無いままに、人の心を掴む言葉を放ってしまったりだとか、無自覚に行動したことで周りが変わっていくというのは素晴らしいこと!!体は彰人のものだけれど、中身は魔王なんだからそのままで行け行けぇ!!
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