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ep13 漢気

 あまりにも周りが静かだから、やべ……と思った。

 さすがに言い過ぎた、とも思ったし……でも、顔を上げれば里香のお父さんは朗らかな顔をしているようだった。

「……って、いつまで頭撫でてるんだっての!頭ぐっしゃぐしゃじゃねえか!」


 大きな手でいつまでもぐしゃぐしゃと撫でてくるジイさんの手。さすがにやり過ぎだろう、と軽く退かしてもらうと、やけにジイさんはニコニコと笑っていた。ん?なんだ。何か嬉しいことでもあったんだろうか。それとも会合ってので、嬉しい報告でもあったんだろうか。


「なんだよ、ジイさん。やけに嬉しそうじゃねえか。はは~ん、今日の集まりがそんなに楽しみだったとかか?良かったなあ、こんなに集まってもらって。それに三上さんの家だってそう遠く無いんだし、会おうと思えばいつでも会いに来られるだろ?」


「お?おぉ、まあそうだなぁ。まあお爺ちゃんが嬉しく思っていたのは、単にこうして顔ぶれが揃ったってことに感動しただけじゃあないんだよ」


「?そうなのか」


 じゃあ何に嬉しかがっていたんだろう、と考えているさなか里香はどうしたかと視線で追うと控えめながらも父親のスーツの端っこを引っ張ってちょこんと隣に座りながら父親と内緒話をするかのように小声でお喋りをしていた。まあ、この大勢の中でお喋りをしていれば近くにいるヤツらには話している内容って分かるようなもんだろうけれど、みんななるべく聞かないフリをしているのかもしれない。

 里香は、ここに連れてきて良かったんだろうか。もしかしたら泣かれるんじゃないかとヒヤヒヤしていたものの、俺が父親に向かってあれこれと言ってから里香の方から父親に歩み寄って行ったのを目にした。うんうん、そういう最初の第一歩ってヤツが大切だったりするんだよなあ。


『八神さんとこのボンが三上さん相手に詰め寄った?』

『お嬢も一緒に連れて来て……久しぶりにあんな顔の三上さん見たなぁ……』

『やっぱあの人だって父親なんだよ……』


 なーんか、ぼそぼそ聞こえるが……ここは俺も聞こえないフリをしておこう。下手に口を出して、喧嘩沙汰にでもなったらジイさんにも三上さんにも、そして里香にも変な思い出をつくらせるはめになっちまうしなあ。


「彰人さん、彰人さん!ありがとうございやした!」


「へ?えーっと……俺、何かしたか?」


 礼を向けてきたのは、先ほど里香の部屋まで案内してくれた二人組のうちの一人だった。丁寧に頭も下げられたものだから、こっちとしてはたまったものじゃない。


「正直、学生の彰人さんが今日来られるって聞いて迷ったんすけれど……思い切ってお嬢のこと相談してみて良かったっす!」


「里香のこと?あー、だって小さい子が一人で部屋にいるなんて聞いたら黙っちゃいられないだろ?」


「それはそうかもしれないんすけれど……なんか、だいぶ耳にしていた人とは違ったようで……なんつーか、彰人さんからは漢気のようなものを感じたっす!」


「お、おとこぎ……?」


 だからなんで、こういう連中ってそういう小難しい言葉ばっかり使うんだよ!?俺なんか最初に聞いたとき全然意味が分からなくてジイさんにめちゃくちゃ聞いた覚えがあるし。だいたい、今回の『漢気』ってのもどういう意味なんだか……。


「……ジイさん、漢気って……?」


「はは、まあお前が男らしくてすげえことをやったなあってことだな」


 男らしいなら、普通に男らしいって言えば良いじゃねえかよ!まったく、いちいち面倒だな……。


「……そんなこと、俺したかな……」


 俺がしたことと言えば、一人きりでいる里香のことを見聞きして知って、このままじゃだめだと思ったからついついこの場に連れて来て……それで、お互いに世話になっている人に挨拶したぐらい。そういうのが男らしいっていうんだろうか?


「里香は、少し控えめなところがあるから一緒にあらわれたときには何事かと思った。……が、やっぱり娘の顔を見ると安心する。礼を言うよ、彰人くん。……もう、坊主とは呼べないなぁ」


「は?はぁ……ど、どうも……」


 里香の父親にはやけに感謝されちまったんだけれど、よく分かっていなかった。娘が父親に会いに来るなんてそんなに珍しいことだったんだろうか。それにまだ五歳だぞ。むしろずっとくっついていたいっていう年頃じゃないのか?まあ、感謝は素直に受け止めておくけれど……。

 って、まーたジイさんの手が伸びてきて俺の頭を撫でまわしてくるし!その顔は、里香と父親の二人に向けられていて、なんとも和やかな顔をしていた。もしかして……俺の小さい頃や亡くなった父親の姿でも思い返しているんじゃ……。ジイさんには酷なことかもしれないけれど、死んだ者にはもう会えないからなあ……。いや、それは当たり前なことなんだけれどさ、どうにもジイさんの顔をみていると亡くなった俺……彰人の父親に会いたいような顔をしているんだよなあ。


「三上さんにも素敵なご家族がいらっしゃるようで、しかもまだまだ幼い。いろいろと大変かとは思いますが、子どもは手がかかるもの。それが当然ですからなぁ……ウチの彰人だって最近は少し変わったようですが、つい先日まではぐうたらに過ごしていたような人間ですよ。なにがきっかけで変わったのか分かりませんが、子どもも成長するもんですなぁ……」


 そう言うと立ち上がってしまうジイさん。え、ちょ、もう帰るのか!?もしかして俺めちゃくちゃ邪魔しちまったのか!?と慌ててジイさんと三上さんの様子を交互に見ていたのだが。


「正直、私も彰人くんのことは噂でしかありませんでしたが聞いていましたよ。ここ最近は、人が変わったように過ごし方から変わったとか……」


 まあ、中身が変わっちまったからなあ……って、三上さんも立ち上がる。それを合図に、周りも立ち上がっていくものだから、もしかしてやばい展開にでもなるのか!?と考えているとジイさんから声がかかった。


「おーい、彰人。こっちはそろそろ帰らせてもらうぞ、早くこっちにおいで」


「あ、お、おう!」


 な、なんだ帰るだけかよ……と安心しながら立ち上がるものの服の端を引っ張られる感覚がして、下のほうに顔を向ければ里香が服を引っ張っていたらしい。何やら言いたそうに視線をあちこちに動かしてはもごもごと口を動かしていた。


「どうした?ウチのジイさん、怖かったか?」


「っ、全然!とっても優しそうだった!」


「だろだろ!」


「あの、あのね……彰人お兄ちゃん、また……遊びに来てくれる?」


 なーんだ、そんなことかよ。それこそ泣かれるのかと思って心配していたのだが、改めて里香と視線の高さを合わすためにしゃがみ込むとぽんぽん、とその小さな頭を撫でてあげた。


「当たり前だろ?今度はもっともっといろんな話でもしような!」


「!うんっ!!」


 肩ぐらいまでに伸びている髪を思いっきり揺らしながら何度も大きく頷き返してくれる里香。そんな俺たちを遠くから眺めているスーツの強面集団。……いや、普通に声でもかけてくれよ!そういう大の大人の集団が眺めているだけってのもなかなかに迫力があるんだからな!里香がびびったりしたらどうするんだ!


 車のあるところまで、里香と里香の父親も見送ってくれた。ジイさんが乗り込んだ後に俺も車に乗り込むと途端に顔を歪みはじめる里香の顔。……おいおい、まさかこれから泣くってか!?車のドアを閉めきる直前にぽんぽんとまた里香の頭を撫でてあげた。


「おーい、別にずっと会えなくなるってわけじゃねえんだから、そんな顔するなって。こういうときは……笑うもんだろ?ほらほら、笑え笑え!」


 父親が近くにいたから多少の気まずさはあったものの、ここで里香に泣かれるのも気まずい!そう思った俺は、里香のほっぺを軽く指先でつんつん、とつっついやった。そうすると歪みかけていた顔が穏やかに笑みをつくっていったので今度こそ車のドアを閉めた。

 三上さんもそう悪い人ではないようで俺が離れると里香の頭を撫でてあげたようだった。車は自宅へ。でも、そんな俺たちが乗った車を見えなくなるまでずっと三上さんと娘の里香は見送ってくれていたみたいだった。

 里香ちゃん!これからはもっとお父さんに甘えてね!いろいろな我が儘だって言って良いんだからね!!むしろ我が儘言って困らせてあげなさい!!(そんな無茶な)


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