ep12 父親に向かって、メンチ切る!?
三上さんってところの舎弟……二人組から案内されて、出会ったのは小さな女の子。
小さいのは当たり前だ、だってまだ……五歳なんだろ?
それに……なんだ、コイツ。遠慮、とかしてるんだろうか?
この家もデケェ……。
取り敢えず、スーツ二人組に案内してもらっているから良いんだけれど、さっきジイさんが招かれた場所に一人で戻ってみろって言われたらきっと迷うんだろうなあ……。と、背丈も小さいが手も小さな里香と手を繋ぎながら二人組の後から付いていった。
「……あの、お兄ちゃん……」
「ん?彰人で良いぜ?」
「あ、彰人……えっと、彰人お兄ちゃん……私、お父さんのお邪魔したくないよ……?」
「別に仕事の邪魔しに行くわけじゃねえよ。んー……挨拶だな!挨拶!」
「……挨拶?」
「そそ。里香はウチのジイさん……えーっと、八神のジイさんとは会ったことってあるのか?」
やべ。
ジイさんの名前って何て言うんだったか……なんか、すげえ難しそうな名前をしていたんだよな、確か。俺がそうたずねるが、里香は困ったように首を左右に動かすだけ。
「なら、ちょうど良い!ウチのジイさんってめちゃくちゃ良い人だから、挨拶に行こうぜ!俺も、里香のお父さんにちゃんと挨拶するからさ!」
「……う、うん……」
戸惑っているような、緊張でもしているのか、眉を上げ下げ、口を引き締めたり、ぎゅっと噛み締めてみたり、いろいろな顔をしている里香に思わず俺は噴き出して笑ってしまった。
「ちょ、里香里香。お前、なんつー顔してんだよ?挨拶するだけだぞ?」
俺の笑い声が聞こえると里香は俺がいる方向とは別に、ぷいっと顔を背けてしまった。あ、やべ。機嫌でも損ねてしまったんだろうか。でも、俺と繋いでくれている手はそのままだし、別にみんなの所に行くのが嫌だってわけでもなさそうなんだよなあ。
「……彰人さんって、子どもの扱いに慣れていたりするんすか?」
「なんか、ついさっき出会ったばかりのお嬢とめちゃくちゃ仲良いっすね」
「は?なーに言ってんだ。これぐらい普通だろ。っつか、むしろアンタたちの方が俺からすれば変だぜ?一緒にこの家で暮らしているんだろ?なのに、なんでそんな……えーっと、妙に距離があるっつーか、遠慮してるような扱いをしてるんだよ?」
おもむろにスーツの二人組から俺の里香に対する言動のやり取りに、それはそれは俺には不思議がりつつ、妙にコイツらには感動されてしまっているが、普段……里香とはあんまり遊んでやらないんだろうか?だって五歳なんだぞ、コイツは。まだまだいろいろ教えてやらなきゃならないことも多いだろうし、そばに誰かがいてやらなきゃならない年齢だろう。……おもちゃやらぬいぐるみがあれば、良いのか?いや、違うな。コイツは、きっと遊べるおもちゃなんか欲しくねえんだよ。コイツが一番求めているもの。それは……家族の温もりってヤツなんじゃねえか?
「遠慮しているつもりはねぇんすけど……」
「え、えぇ……お嬢も部屋にばかりいますし……」
「あのなあ!コイツが好き好んで部屋にポツンとしていると本当に思ってんのかよ?ガキのコイツが、いろいろ言わないならアンタらが積極的になって遊んでやらなきゃいけないんじゃねえのか?」
チビのうちから一人で何でもできるはずがねえ。なんで、それが分からないんだ?つか、里香の父親だって何も言ってこないのかよ?おかしいだろ。
あ。そうこう言っているうちにジイさんが招かれた広間の手前までやってくることができた。閉じられている襖の両脇には同じくスーツ姿の強面のおっさんたちが立って、まるで見張りでもしているかのようにじっとしている。……置物か?いや、ちゃんと生きてる人間だよな。
ここまで来れば俺でもなんとかなる。ここまで案内してきてくれた二人組に『ありがとな』と感謝の言葉を述べつつ、ぴしゃりと閉められている襖をそーっと、でも中には伝わるように開けた。
「……里香?」
「彰人か、どうした?」
広間には、数十人ぐらいいただろうか。ジイさんの他は、同じようなスーツ姿の強面ばっかりだったが、ジイさん以外は、この家の……三上って人の家族ってことで良いんだよな。俺が姿を見せたことにも驚いていた様子だったが、俺と小さな女の子が手を繋いで一緒にやって来たことにもみんなして驚いているようだった。……そんなに、驚くようなことか?何か大切な話をしていたかもしれない……まあ、少しばかりは会話を中断してもらうことにしよう。こっちだって大切なことをするためにやって来たんだからな!
「……ほら、あっこで着物を着ているのがウチのジイさんだ」
『いきなりすんません!少しだけ時間をください』と言うと、俺は戸惑っている里香の手を引きながらまずはジイさんのところへと引っ張ってきた。
「ほら、里香。……挨拶、挨拶」
「……み、三上……里香です……」
「よしよし!よく言えたじゃねえか!上出来上出来!」
ジイさんも俺が連れて来た里香に驚いていて、しかも、いきなり挨拶をしてきたものだからいろいろと困惑しているのかもしれない。が、挨拶ぐらいしても良いだろう?
「……お、おお。里香ちゃんか。確か、五歳……だったかな?」
ジイさんも小さな女の子に目を丸くしつつ、口を開いて少ない言葉をかけていくと里香は、こくこくと頷き返していく。一応、コミュニケーションは取れていると思う。うんうん、連れて来て良かった良かった。さて、今度は俺の番だな……。
「えっと、里香の父親の三上さんっていうのは……」
「……私、だが……」
渋く、そして言葉少なく応えてくれたスーツ姿の男性に合わせてその場にしゃがみ込むと、軽くぺこりと頭を下げてから俺は口を開いた。
「俺は、八神彰人。……俺には、両親がいない。だからジイさんが俺の親みたいなモンだ。里香にもアンタにもいろいろと事情があるかもしれない。仕事も、大変かもしれない……けれど、もう少しぐらい里香と一緒に過ごしてやってくれませんか。ここにいるほとんどの人たちは、三上さんとこの家族なんだよな?だったら一人二人ぐらい里香の遊び相手になってやっても良いんじゃねえの?……里香は、まだ五歳だ。いろいろなことを見聞きして、学ぶべきことが多い歳なんだよ。里香は、きっと遠慮してる。父親であるアンタにも、もしかしたら他の人たちにも。だから、そういう場合は大人のアンタたちが積極的に里香と遊んでやれよ。部屋にずっと一人で過ごすなんて……可哀想じゃねえか」
俺は、里香と出会って感じたことを、里香の父親に向かってつげた。不思議と周りのヤツらも俺の言うことにはざわついたりすることはなく、耳を傾けてくれているらしい。別に父親が悪いとか、そういうことを言いたいわけじゃない。どうしても仕事に大変なときもあるだろう。それでも……里香だけ部屋で過ごさせているなんて……これ、家族って言えるのか?
「……彰人お兄ちゃん……」
「……はは、すまない。まさか出会ったばかりの坊主にそこまで言われるとはなぁ……八神さんのところは良い跡取りに恵まれたもんだ……。正直、私や他の連中には里香の面倒をきちんとみられるのか怖くてね……どう接していくべきか悩んでいたところでもあるんだ」
「別に、面倒をみるとかそうやって考える必要は無いんじゃないか?……だって、家族なんだろ。遊び方が分からなけりゃ、ただそばにいるだけでも良いんだよ。そういうのが親心っつーか……家族、だろ?……いきなり俺みたいなヤツに生意気言われてムカついているのかもしれないけれどさ……里香ともっと一緒に過ごしてやれよ」
すると、いきなり俺の頭に手が置かれて、わしゃわしゃと思いっきり撫でられたもんだから誰だ!?と手の主を確認すると、ジイさんだった。特に、何か言ったりすることはなかったんだけれど、大きな手で俺の頭をめちゃくちゃに撫でまわしてきたのだった。
子育てとかに悩む時期……でも、子どもは一生、子どもですから。衝突して喧嘩をしても、それは家族だからやれること。いろいろ悩みながら子どもと接するのだって家族だからこそやれること。時に笑いながら、時に一緒に悩みながら三上家がもっともっと良くなることを祈っています!!
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