ep11 お嬢との出会い
三上っていう家に行くと、そこには強面の連中だらけ。
……思ったんだけどさ、ウチもコイツらも……普通じゃねえよなあ……やっぱり。
なかなかに、個性的っつーか……そう、コイツらの目だけで弱っちいヤツなら逃げだすような……そんな強面だらけの連中。ウチにいた、三人もなかなかに最初は強面だよなあと思ってはいたが、ここにいるヤツらは、それ以上に迫力みたいなモンがあった……が。
「「「ようこそ、八神さん!!お待ちしていました!!」」」
「はは、まあそんなに堅くならず!……いつもながら、挨拶がきちっとしていますなあ」
どうやら、ウチのジイさんには一回りも二回りも頭が上がらないのか、きっとした挨拶と一斉に頭を下げてきたスーツ姿の強面連中。え、このなかでもウチのジイさんってすげえ立場が上だったりすんのか?
「八神さんをお招きしたのですから、これぐらいは当然です。お孫さんもこちらにお招きしますか?」
「そうだなあ……おい、彰人」
「ん?」
ついつい、呆気にとられてしまっていると少しばかり反応が遅れてしまったが、ジイさんの呼ぶ声にハッと顔を上げると『どうしたもんかな……』と困っている様子。こりゃあ、ここには俺がいるのはマズイんじゃないか?……何処か、他に……邪魔にならないようなところにでもいたほうが良いのかもしれない。
「えーっと……難しい話なら、俺はいない方が良いだろ?……隣……いや、庭にでも出て待っていても良いか?」
俺の気が利く発言に、ジイさんはもちろんのことスーツの強面連中たちも目を丸くしつつ、あちこちから驚きの声が聞こえてきた。
『八神さんとこの……あのボンは、まだ学生ですよね?』
『……てっきり、逃げ出すかと思っていましたけれど……』
『はは、俺たちを目にしてもビビらずにいるとは……なかなか見込みがあるじゃねえか』
「そう、だなあ……三上さん。連れを一人か二人借りても良いですかな?なーに、別に彰人は悪さするようなヤツじゃあないですが、話の相手にでもなってやってくださると助かるんですがねえ」
「え、えぇ。それぐらいならば……」
どうやら三上ってところにいるスーツ姿の輩を一人、二人、俺の見張り……じゃなくて、話相手にしてくれるらしい。まあ、静かにぼんやり過ごすってのは退屈だったし、ちょうど良いかもしれない。
「ボンは、こっちの家に来るのは確か初めてでしたよね?」
ボン?あ、それって俺のこと?
そういう呼ばれ方もするものなのか……。
「えっと、そう。今日が初めてで……」
どうしよう、ぶっちゃけ庭でぼんやり過ごすにしろ、家の構造っていうものがよく分からん。でも、俺に付き添ってくれることになった二人組はとことこと、とある一室に俺を連れて来てくれた。……庭じゃ、ないのか。残念……。
と思っていたが、急に二人のうちの一人が俺に頭を下げてきた。いきなりのことに目を丸くしてしまう俺だったのだが、次いで吐かれる言葉にも目を丸くすることしかできなかった。
「実は!ボンに……彰人さんにお願いがありやして……この家には、まだ幼い娘さんがいるのですが、なかなかにどう遊んであげれば良いのか分からず……それで、一番歳が近い彰人さんにお願いできないかと……」
「娘さん?って、さっき五年前だか六年前だかに生まれたって言ってた子か?……あ、子ですか?」
「へぃ!あ、自分らには別に普通に話してもらって大丈夫っす!」
「あー、どうも。……でも、遊ぶって……えっと、母親は?」
「……実は、三上さんとこの姉さん……奥さんは、ちょいと事故に遭っちまって、今、この家にはいないんすよ……病院に入院してやす……」
「なんだと!?……おい、その娘は今、何処にいるんだ……」
「自分の部屋ですけれど……え、まさか会ってくださるんすか!?」
「当たり前だ!まだ小せぇのに、一人にさせるとか……そんなの可哀想じゃねえか!」
俺は、すっかりこの二人組と仲が良く……結構、話すようになってしまって、まだ生まれて五歳だという娘さんの部屋に案内されてついていくことになった。まだ、五歳だろ!?それなのに、近くには母親がいない。父親は、あれこれと集まりで忙しい……何度も言うが五歳なんだろ!?誰かがそばにいるのが当たり前の年頃じゃねえのかよ!ったく、こいつら……こんなに人数がいるっていうのに、子どもの近くには誰もいないとか……誰か変に思ったりしないのか!?
「こちらになりやす!」
「お嬢……えっと、里香さん!今日は、お客さんが……っと、彰人さん!?」
「失礼するぜ」
こういう家ってどこまでも和風なんだな。ドアみたいなものが存在する部屋は無くて、襖で仕切られている部屋ばかり。
一応、一声かけてから開けられるよりも先に、襖を開けるとそこには……畳が敷かれている部屋の真ん中には、たくさんのぬいぐるみに囲まれながらも何処か寂しそうに見える小さな女の子がいた。コイツが……里香か。
「……誰……?」
「俺は、八神彰人!よろしくな!」
いきなりで失礼かとも思ったが、こんな広い部屋に一人だけ……で、過ごしているコイツを見ていられなかった。ズカズカと部屋に入り込むと、女の子のかたわらにしゃがみこむと、軽くわしゃわしゃと里香の頭を撫でてやった。
「……八神、彰人……お兄ちゃん?」
「そそ、彰人で良いぞ?……里香は、何をしていたんだ?」
「……今日は、たくさんお客さんが来るって聞いていたから……ここで、大人しくしているの」
スーツの二人組は俺の後ろで『あー』とか『えっと』とか、なんだ?話したいことがあるならはっきり言え、とも思ったがここは他所様の家だしなあ……あまり俺がいろいろ言うのはマズイか。
「……一人、だったのか?俺が来るまで」
「うん。……だって、里香……邪魔になっちゃうから……」
おいおい、これ……コイツ本当に五歳か?五歳にしちゃあ、大人びてないか?周りは、こういう強面連中だらけだろうし、母親も身近にいないと自然とこうなっちまうものなんだろうか……って、そうじゃなくて!
「邪魔?邪魔になるって誰かに言われたのかよ?」
「ううん。でも、お父さんのお仕事……邪魔したくないし……」
「はあ!?あのなあ……お前ぐらいの歳の子なんて、いくらでも親に迷惑掛けて当たり前なんだぜ?ほら、俺と一緒にお父さんのところに行こう」
「「え」」
背後で、ぎょっとしたような声が聞こえてきたけれど、別にちょっと顔を出すぐらいは良いんじゃねえの?それで、すぐに戻るなら……さ。
俺が、片手を差し出すと女の子……里香は、じっと俺の手を見つめていた。……あれ、もしかして、これどうしたら良いのか分からないとかって考えているんじゃあ……?実際、俺の手と俺の顔を交互に何度もに見つめてくる。マジかよ!……つか、五歳が!遠慮なんかするなって話なんだよ!
「ほら、手。出せって」
一人で寂しく遊んでいたらしい里香の片手を取るとゆっくりと立ち上がった。もちろん里香も一緒に。里香はかなり小さいから、どうしても手を思いっきり上にあげてもらう必要があるが、俺もそんなに背が高い方ってわけでもなかったからなんとか手を繋ぐことができた。
「……あのさ。さっきの、ウチのジイさんたちがいる場所に……少しだけ顔を出したいんだ。良い、かな?」
「「へ、へぃ!」」
ウチの舎弟みたいだな、反応が。
ま、でも取り敢えず案内してもらえることになったみたいだし、良かった良かった。でも、里香の表情を見ていると優れないっていうか、寂しいのを我慢しているっていうか……子どもにしちゃ無理してるっていうのが分かった。こんな顔をしているっていうのに、この家の誰もが気付かなかったのかよ!?
よそさまからすれば『ボン』って呼ばれるのかな?そして、こういうお家だと女の子は『お嬢』って呼ばれるのかな?あ、ぜひそう呼んでもらいたい!でも、五歳……ですよね……ええー……もっと、いろいろ遊びたいだろうに……。寂しいだろうなあ……。
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