ep10 いざ会合へ
みんなで食事をするのも当たり前になってきた。
相変わらず飯は美味い!
あ、そうだったそうだった……今日行く会合のこと聞かないといけないんだったよな。
食事を終え、食後のお茶を飲んでゆっくりと過ごしているときに俺はジイさんに向かってたずねた。
「なあ、ジイさん。今日の会合って……俺ってどんな服装で行けば良いんだ?」
「服装?」
「だって会合って言うからさ……今みたいな恰好じゃ、さすがにマズイと思うし……」
「そうだなぁ……制服っていうのもどうかと思うし……アイツが着ていたスーツが合うか、試してみるか……」
『アイツ』?それってどこの……と聞きたかったけれど、ジイさんはスーツを探しに席を立って、箪笥を開き始めた。『さて、どこにやったか……』と探し物に苦戦しているようだ。服を探しているんだよな?そんなに何処にやったか?なんて覚えていないものなのか?
『おお、あったあった』とジイさんが引っ張り出してきたのは透明なビニールに包まれているスーツ一式。
「これに腕が通るか、その服の上からで良いから着てみてくれるか?」
「この上からで良いのか?分かった……」
スーツの上着のボタンを外して、バサッと羽織る。今までしまわれていたせいだろうか、ちょっと独特な匂いが鼻についたものの、別に何処か傷んでいるとかそういったことは無さそうだ。すんなりと俺の腕が通って、デカさ的にはじゅうぶん着ることのできるサイズのようだった。
「……コレで、良いか?」
「……おぉ、似合ってる似合ってる。なら、今日の会合はそれを着ていくとしようか」
俺の体とスーツのサイズが合っているかチェックしていると、ひょこひょこひょこっと顔を出してきたケンさん、テツさん、シンさんの三人組。それぞれが俺がスーツの上着を着込んでいる所を目にすると感極まったかのように涙ぐんでいたり、感嘆して『おぉー!』と歓喜の声を上げていたり、目を丸くしてから『似合ってますぜ!』と笑顔で応えてくれたりしていた。え、俺ただジイさんが持ってきてくれたスーツに袖を通しただけなんだけれどな……そんなに感動するものか?
「……コレは、息子が……つまり、彰人の父ちゃんが着ていたスーツだったんだよ。うん、彰人が着ていると……やっぱりアイツによく似ているなぁ……」
ジイさんまでもが俺の姿を見て、ちょっと感動しているような風だったから気まずくなってしまった。それって、俺の亡くなっている父親ってことだろ?……なんだか、悪いことをしたかな。一旦、スーツの上着を脱ぐと皺にならないようにハンガーにかけて、部屋の隅に掛けておいた。
「えっと……なんか、悪いことしちゃったかな、俺……」
「いやいや、彰人が悪いってことは無いさ。……まあ、少しだけ息子の姿が蘇って見えたようにみえたものだからビックリしたってだけさ」
「そ、そっか……」
亡くなった彰人の父親も慕われていたんだろう。ジイさんや、ここにいるヤツらにこんな顔をさせるってことは……それだけ良い人だったのかもしれない。
ある程度、時間が経てば『そろそろ準備をするか……』と言い始めたジイさん。ジイさんはワイシャツは着なくて良い、そのTシャツの上からで良いから、あとはこのスーツに着替えて来なさい、と改めてスーツを俺に渡してきた。
一度自室に戻ってから渡されたスーツを着込んでいく。上着は、ちょっとゆとりがあるって感じだったけれど、ズボンの方はだいぶゆとりがあるみたいで、裾を折ったり、ウエスト部分はベルトで締める必要がありそうだ。全体的にちょっと緩いスーツに身を包んだ俺はその姿で居間に戻ってくると『これで大丈夫かな?』と、その場にいるみんなにたずねた。
「お似合いですぜ!若!」
「兄さんが戻ってきたみたいですぜ!」
「うぅ……っ、兄さん!兄さんにも若の姿を見せてやりてぇです!」
と、それぞれ言っていた。ジイさんの姿が無いことに気が付いた俺は『ジイさんは』と聞くと……。
「おやっさんは、おやっさんで準備があるそうですぜ!もう、間もなく!」
「へぇ?」
てっきりいつも着ているゆったりとした服装で行くのかと思っていたが、違うんだろうか。
ところが、姿をあらわしたジイさんはやっぱり服装はいつもの着流し姿のままだった。特に何か変化があったようには見えない。
「さて、車は……ケンに出してもらうことにするか。ケン、頼めるか?」
「へぃ!」
「じゃあ、テツ、シン。家のことしばらく頼むぞ」
「若も、お気を付けて!」
「お、おう……行ってきます……」
ケンさんが運転してくれる車(かなりデカイ!っつか、ピカピカに光ってねえか?あ、いや色は黒だけどよ……ツヤがすげぇ!)にジイさんと一緒に後部座席に乗り込んだ。ここからは、車で移動しても数十分ぐらいはかかるらしい。
「で、何処に行くんだ?」
「今日行くのは、三上さんっていうお宅に集まることになっているよ。彰人、くれぐれも失礼の無いように、な?」
「わ、分かってるって!そのぐらい!」
たわいない話を続けていれば数十分なんてあっという間に過ぎていった。
そして、着いたらしい『三上』という宅。ウチにも負けないぐらいの敷地があって、広い庭もあって、とにかく出迎えてくれる人の数が……普通じゃなかった。
「「「ようこそ!いらっしゃいました!八神さん!」」」
「あぁ、失礼するよ。今日は、孫の彰人も一緒なんだ。……ほら、彰人。お前も挨拶ぐらいせんか」
「あ、こ、こんにちは……彰人、です……」
「八神さんとこの跡取りですかぃ?まだまだ若そうですね!」
挨拶の仕方がイマイチ分からなくて緊張しているのかと思われたのか、可笑しそうにクスクスと笑い声が聞こえてきた。それに、俺を見ればまだまだ『ガキっぽいですね』とひそひそ話をしてくる声も聞こえてくるし……んだよ、誰もがガキだったことぐらいあるだろうが。
人数もすげぇと思ったが、出迎えてくれる人たちみんながウチの家族たちに負けず劣らずの強面ばかり。服装はみんな揃ってスーツ姿。……うーん、やっぱこういう集団って、なんていうか……チンピラ?いや、ちょっと違うか……。
「三上さん!八神さんとそのお孫さんがお付きになられました!」
「……おぉ、久しぶりだな。そっちの若いのは孫か?はは、随分とでっかくなったなぁ!」
新たに顔を出してきたのはジイさんと違い、スーツ姿をしているものの他とはちょっと雰囲気が明らかに違う……気がした。そして、ジイさんよりもかなり若そうな男だった。
「久しいなぁ……三上さんのところは、子どもも生まれて五年も経つか……」
「はは、まあ……生まれはしたんですが、女の子でして……なかなか接し方に苦戦しているところですよ」
子ども?
あちこちに視線をきょろきょろと動かしてみるが、小さいガキのような姿は……見つけられない。隠れている?もしくは、これから会合だっていうから部屋にでもこもっているんだろうか……。
「なーに、性別なんて関係無いさ。子どもは手のかかるモンよ。だが、それもまた幸せと思わなきゃなあ……」
「……そうでしたな。八神さんところは、かれこれ十年になりましたっけ……」
「早いもんだねぇ、もう十年か……」
二人の会話が分からん。でも、あまり楽しい会話をしているようには思えなかった。
あれこれ話しているうちに大広間のように広い場に来た。そこには、いろいろな顔ぶれが。どいつもこいつも裏がありそうな感じで、言っちゃ悪いが、あまり良い組織っぽくは無い感じがした。
他の組……って言っていいのかな……。〇〇家、とかって付く方々との会合。きっと彰人は、その場で話を聞いても分からないことだらけかもしれませんねぇ……さて、彰人をどうしていくか……。
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