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マンノーラン伯爵家の落ちこぼれ次女〜人に誇れる才能のない私が、第一皇子様の専属護衛に!?〜【第二章開始】  作者: 綾丸湖


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53. 帝都へ


 ゼイドとキュライル軍団長との手合わせの翌日。

 多くの兵士たちに見送られ、サラマリアたちはクルアラン砦を出発した。


 共に帝都に向かうのは、キュライル軍団長と西方軍の兵士たち。これまでの旅ではあり得なかった安心感があり、行きとは全く異なる心持ちだ。


「それじゃーアタシはこの辺から別の道を通って行きますんで!殿下にみなさん、お元気でー!」


「ああ、そちらも気をつけて。ハリ、今回は本当に助かったよ」


 ハリさんとは途中で別れることになった。

 なんでも、行っておきたい場所があるのだとか。ハリさんがいなければ無事では済まなかっただろう。本当に感謝している。


 旅は順調に進んでいた。

 今回はしっかりと信頼できる戦力も揃い、帝都に向かう大義名分もあるため、ネラエラ皇妃の生家であるギリューゼル領を迂回する必要がない。山道を通らない分、かなり楽に移動ができるはずだ。


「今日はこの町で一泊することにしましょう。我々がおりますので、殿下は安心してお休みください」


 避けていた町にも入ることができる。

 宿に泊まって、ベッドで眠ることも可能だ。これが贅沢だと思えてしまう今までが異常だったのだが。


 宿に入り、構造を確認する。

 いざという時のために、逃走経路は確保しておかなければない。西方軍の人たちは信頼しているが、外部から火をつけられる可能性もある。


「では、おやすみ。サラマリアとゼイドもゆっくり休んでくれ」


 そう言って、殿下は部屋に入っていった。


「では、ゼイド。私たちも交代で眠りましょうか」


「流石だなぁサラ嬢は。どっちから寝る?」


「ゼイドは移動で疲れてるでしょうから、先に寝てください。交代時間になったら起こします」


「おお、ありがとよ。そんじゃあ、お先に」


 警戒しすぎだと言われるかと思っていたが、ゼイドはすんなり受け入れてくれた。やはり、彼は信用できる。


 キュライル軍団長たちがいる今、ここまでする必要はないのかもしれない。しかし、やるべきことはやっておかなければ気が済まなかった。シルオネ男爵領では、殿下でさえ油断していた。あの時のようなことは、今後起こってはならない。

 

 周囲の気配を把握しつつ、夜が更けるのを待つ。

 この日は何も起こらず、途中でゼイドと交代して眠ることができたのだった。



***


 

 出発から数日が経っていた。

 セルフィンたちは、何事もなく旅を続けている。


 懸念していたギリューゼル領内での道中でも襲撃等はなく、安全に進むことができた。今日でシルオネ男爵領には到着する予定になっているので、順調と言える。

 

 ここまで来て、やっと緊張感がほぐれてきた。

 油断してはならないが、少しは肩の力を抜いても問題ないだろう。サラマリアとゼイドは警戒をしてくれているようだが、適度に休める環境にあるためそれほど疲れてはいない様子だ。いや、ゼイドは移動だけでぐったりしている時もあるが。


 しばらく進むと、今日の目的地であるシルオネ男爵邸のある街が見えてきた。ビンター殿は元気にしているだろうか。



……



「おお!殿下、よくぞご無事で!」


 日暮れ前に、シルオネ男爵邸に到着することができた。今日はここで一泊することになる。この場所では嫌な記憶が蘇るが、今回は大丈夫だろう。


「ビンター殿、お変わりありませんか?」


「ええ、なんの問題もありませんでした。ビガラの奴も大人しくしております」


 敵の手の者に消されている可能性も考えていたが、どうやら無事のようだ。


「それは良かった。明日、帝都に向けて出発する予定ですが、ビンター殿もよければご一緒に赴き、証言していただけないでしょうか? 急なお願いになってしまいましたが……」


「もとより、そのつもりです。私を嵌めた輩を糾弾せねば腹の虫が収まりません」


 ビンター殿の目は、まだギラギラとしている。

 暴走しないか心配なところではあるが、証言者としては頼もしい。


「ありがとうございます。ビガラ男爵から押収した証拠品もありますので、首謀者を引きずり出しましょう」


「ええ、必ずや」


 ビンター殿と握手を交わす。

 さあ、ここからが本番だ。生き残ったからには、最大限この状況を利用させてもらう。




***



「このッ、無能めがッ……!!」


 深夜、帝都にて。

 皇妃の私室で、ネラエラは激怒していた。


「あれだけの手勢を率いながら、なんの成果も得られなかったですって……!? よくおめおめと戻ってこれたものですね……!!」


「……申し訳、ありませぬ」


 第一騎士隊・隊長のオグレトが膝をつき、首を垂れている。ネラエラからその表情は見えていないが、歯を噛み締めてその屈辱に耐えていた。


「なぜ、こんなにも無能しかいないのか……!!」


 援軍として送り出した第一騎士隊の兵たちが早々に帰還し、全てが上手くいったとほくそ笑んでいた。だが、聞いてみれば結果は真逆。企みは全て頓挫し、第一皇子は逃げおおせ、こちらに帰還してくる。


「どうして西部に留まり兵を伏せ、襲撃しなかったのです!? そこで討てていれば、やりようはいくらでもあったものを……!!」


「恐れながら、第一皇子には西方軍の兵がついております故、襲撃が成功する可能性は低かったかと……」


「それでもやるべきでしょう!? 臆して引き返し、可能性をゼロにしてしまったのは貴方に他なりませんよ……!?」


 ギリッ、とオグレトの歯が鳴る。

 だが、それにネラエラが気づくことはない。


「第一騎士隊が臆病者の集まりだったとは……!!ここまで準備してきたことが全て台無しに……」


 ネラエラはこの計画のために、様々な労力をかけてきていた。ネラエラの私財、実家であるギリューゼル侯爵家の資産や伝手も利用した。これほどまでに周到に準備してきた企てを、無能な騎士に潰されるとは。


「この恥知らずが……!!貴方には相応の罰を与えねばなりません。覚悟しておくことです」


 冷たい目で、跪くオグレトを見下ろす。

 使い物にならない無能など、必要ない。


「下がりなさい。そして、沙汰を待つのです」


「……はっ」


 オグレトが退出するのを見届け、倒れ込むように椅子に座る。これからのことを考えねばならないのに、怒りのせいで頭が痛い。


(とにかく、こちらに責がないように立ち回らねば。証拠は残していないから誰かを犠牲にすれば問題はない。オグレトは確定として、誰を見せしめにするか……)


 ネラエラは思案する。

 己の保身と、次の一手を考えながら。



――――――



 ネラエラの私室から出たオグレトの表情は、怒りに染まっていた。


(あの女ァ!!皇妃だからと調子に乗りおって!!栄えある第一騎士隊の隊長であるこのワシに向かって無能だと!?)


 感情が昂り、目はギラついている。

 静まり返った帝城の廊下に、足音が響く。


「オグレト殿」


 見回り以外誰もいないはずの場所で、声をかけられた。


「誰だ!?」


 声の方に振り返る。

 暗くて顔は見えないが、柱の影に一人の男がいた。


「少し、お話をしませんか?」


 

 

 


読んでいただきありがとうございます。

明日もよろしくお願いいたします。

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