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マンノーラン伯爵家の落ちこぼれ次女〜人に誇れる才能のない私が、第一皇子様の専属護衛に!?〜【第二章開始】  作者: 綾丸湖


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39. 西部へ


(流石に、疲れるな……)


 サラマリアは西部への移動中、常に緊張状態を強いられており疲弊していた。いつ何時敵が襲ってくるかもしれないという状況、さらには味方さえも信用できないとなれば一瞬たりとも気は抜けない。


「サラマリア、そろそろ予定地点だ。打ち合わせ通り、次の休憩で馬に乗り換えるとしよう」


「わかりました」


 馬車の中というのは安全そうだと思っていたのだが、周りの護衛が敵かもしれないと思うと途端に危険なものとなってしまった。ある程度自分の意思で動ける馬での移動のほうが、精神的に余裕が生まれると思う。


「サラマリア、君にばかり負担をかけてすまない」


「いいえ、これが私の仕事ですから」


 殿下が申し訳なさそうにしているが、これは自分にしかできないことだ。戦闘能力が高ければもう少し楽になっていたと思うが、ないものねだりをしてもしょうがない。できることをやるだけだ。



――――――



「馬、ですか」


 殿下が、レギルデ隊長に馬への乗り換えを打診している。


「ああ、そろそろ道が悪くなってきただろう。早急に現地に到着するためにも、馬で向かうことにする」


 普段の殿下ならば言い切ることはせず、まずは相談していることだろう。今回は事情が異なるため、有無を言わせぬ形で話を進めている。


「……わかりました。馬車はこちらの町で預けておきましょう」


 意外にも、すんなりと話が通った。

 もう少し渋られると思っていたのだが、拍子抜けしてしまった。


「それでは、準備いたしますので少々お待ちください」

 

 そう言って、レギルデ隊長が去っていく。

 とりあえず馬での移動となったので安堵したが、殿下は難しい表情をしていた。


「どうされました?」


「いや、少し考え事をね。予想通り、仕掛けてくるなら西部に入ってからと思っていていいだろうね」


「西部に着くまでに事を起こしては、露見しやすくなるからでしょうか」


「それもある。まあ、帝国中央で私が殺されると不利益を被る者が多いということさ」


「それは、派閥的なものですか?」


「そうだね。私を疎ましく思っている連中といえば、皇妃を除いて真っ先に浮かぶのが中央の高官たちだ。私がここで死ねば、必ず誰かが責任をとらされる」


 殿下はなんでもなさそうに話しているが、どれも殿下の死を前提としている。それはあまりにも……。


「今は一括りに敵対勢力と見做しているが、そもそも一枚岩じゃない。互いに牽制しあっているからこそ、私は生きてこれたとも言えるね」


 そう言って、私の肩に軽く触れる。


「そう悲しそうな顔をしなくてもいいよ。私は、絶対に生き延びるつもりだからね」


 殿下は私に笑いかけてくれる。

 情けないことに、私の方が励まされてしまった。


「はい、共に生き延びましょう」


「その意気だ。西部に入ってからが本番だから、今は肩の力を抜いておくといい」


 殿下に気を遣わせないために、もう少し表情を隠せるようになろう。



***


 

(サラマリアに負担をかけ過ぎているな……)


 我ながら情けない。

 現状、サラマリアに頼りきりになっている。今回の目的地が、西部に入ってからそれほど日数がかからないことがせめてもの救いか。


 改めて、敵の動向を予想する。

 西部に入ってから仕掛けてくる可能性が非常に高い。道中には森や山道、崖などがあるため、事故に見せかけることは容易だろう。逆に、街道などの人目につきやすい場所は比較的安全とも言える。


 どの勢力も最終的に手を下すことは避けようとしていると考えられる。第一皇子を殺した証拠でも残ってしまえば、確実にそこを突かれて失脚させられるだろう。故に、強硬手段はまだとらないはず。


(まあ、どれもこれも想像の域を出ないか……)


「殿下、準備が整いました。出発いたします」

 

 レギルデ隊長がやってきて、そう告げた。


「ああ、ありがとう。行くとしようか」


 馬に跨り、移動を再開する。

 隣には、同じく馬に乗ったサラマリアがいる。


(これがただの遠乗りだったらどれだけ良かったことか)


 いつか、サラマリアと二人で旅行にでも行きたいものだ。そんな現実逃避が頭をよぎったが、すぐに振り払う。今後のことを考えるのは、この危機を乗り越えてからだ。



――――――



 西部地域に入り、周りを見渡すとだんだん人里から遠くなっていることがわかった。


 西部の特徴といえば、豊富な鉱山資源である。そのため、武具生産といった製鉄業などが発達している。今回の訪問の目的も鉱山資源に関わるものだ。シルオネ男爵領とモザーク男爵領の間にある場所で新たな鉱脈が発見され、その所有権をめぐって対立しているそうだ。鉱脈はかなりの資産になるため、どちらの領主も必死だろう。


 だが、本当に新しい鉱脈が発見されたのかどうかすら疑っている。己を誘き出すための虚言ではないかと思っているが、真偽は定かではない。


 ゆっくりと警戒しながら進んでいると、サラマリアがこちらにだけ見えるように手で合図をしているのが見えた。


(異常なし、か)


 声を出さずとも意思疎通ができるように、予め合図を決めていた。定期的に、サラマリアが報告してくれているのだ。


 馬車内であればある程度は会話できていたが、馬に乗っていてはそうもいかない。こうして話せない状況になってみて、サラマリアの声を聞くことでかなり癒されていたのだと自覚した。


(こんなことは、さっさと片付けたいものだ)


 目的地のシルオネ男爵領はもうすぐだ。


 

……



 警戒して進んでいたが、何事もなくシルオネ男爵領まで辿り着いた。もう町にも入っているため、ある程度は警戒を緩めてもいいだろう。


「殿下、すぐに領主の元へ向かいますか?」

 

 レギルデ隊長の問いに、頷く。

 念の為の準備も終えたので、問題はない。


「ああ、事態は逼迫していると聞いている。すぐに向かおう」


 さあ、どうでてくるか。




「セルフィン殿下、嘆願に応じていただき誠に感謝いたします……」


 シルオネ男爵邸で我々を出迎えたのは、領主のビンター。その姿に覇気はなく、くたびれているように見える。


「問題ありませんよ、ビンター殿。こうした仕事も、皇族の務めですからね」


 あくまで丁寧に対応する。


「そう言っていただけると助かります。もはや、私どもではどうしようもない状況でして……」


 一見すると、本当に憔悴しこちらを頼ってきたように見えるが果たして。


「詳細について、聞かせていただけますか?」


「はい、よろしくお願いいたします」


 ひとまずビンター殿から話を聞き、その後はもう一方の言い分を聞くことになるだろう。場合によっては、発見された鉱脈の視察もあり得る。


 

……



「なるほど、概ね主張は理解しました」


 ビンター殿から今回の件について説明を受けたが、話を聞く限りではビンター殿に落ち度はなさそうだ。むしろ、モザーク男爵が言い掛かりをつけているように思える。


「あちらは好戦的で困り果てておりまして……。できれば穏便に済ませたいのですが、鉱脈を諦めるわけにもいかず……」


 どうにか落とし所を見つけるため、皇族に頼ったのだろう。ここまでの話は、理解できるものだった。


「一度、モザーク男爵の話も聞かなければなりません。話し合いおよび裁定はその後になりますが、よろしいですね」


「はい、お手を煩わせてしまい申し訳ありません。何卒よろしくお願いいたします」


 ビンター氏が深く頭を下げている。

 どうにもこの男が嘘をついているようには見えないが……。


「今夜はこの屋敷でお休みください。ささやかながら宴会の準備もしておりますので」


「ありがとうございます」


 今日くらいは、ゆっくり休みたいものだ。




 


読んでいただき感謝いたします。

明日も投稿予定ですので、よろしくお願いいたします。

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