第12話 クズの末路①(茜(=元恋人)視点)
私はもう、表を歩くことはできそうにない。
別に私自身が罪を犯したということではない。
ただ、私を信じていた人。優しくしてくれた人。愛してくれた人。
それを裏切った。
最初はちゃんと待っていた。彼の帰りを。
大規模な探索計画だった。
国家予算を投入して物資を揃え、探索者に報酬を払って強力なチームを組んだ。
中心になったのは日本トップの探索者パーティ・"明星"。
なのになぜかリーダーの葛野秀明は不参加。
その父親の葛野章人がマスコミを抑え込んだからか、世間からの文句は出ていない。
でも、日本ダンジョン協会の中では怪我を理由に不参加を表明した彼のことを責める空気があった。
逆に私の恋人の……恋人だった沖田紘一は参加することが端から勝手に決められ、逃げることが許されなかった。
本人がそう愚痴っていたわ。
彼には多くの人の期待が乗っていた。
世間からも、日本ダンジョン協会からも、そして政府からも。
そんな状況で逃げれるわけがない。
それは理解しているわ。
でも……ダメだったのよ。
告白したのは私から。
はにかみながら受け入れてくれた彼の顔は忘れない。
その表情は、どちらかというと困惑だったと思う。
私たちの中ではどう考えても遥の方が彼に懐いていて、私は精神的に距離を置くことが多かった。
遥と紘一は仲良く遊んでいたり、話したりしていたが、それを見るとなぜか子供のように見えてしまっていたのよ。
それでも私は紘一に告白した。
私だけのけ者にされるのは嫌だった。
3人だけの幼馴染。
もし2人がくっついたら、私はただの遥の姉。
でも、私が紘一とくっついたら。
遥はきっと私たちから離れない。離れられない。あの子も寂しがり屋だから。
そんな打算的な心でした告白だったのよ。
なのに成就した。してしまった。
私だって恋人というものに興味はあった。
だから、紘一とそういうことをすることに抵抗はなかった。
デートしたり食事をしたり、プレゼントを贈り合ったり。
彼から貰った時計は大事にしていた……。
それに仕事の愚痴も言い合えるし、辛いときに寄り添ってくれる。
私は素直ではないから表情や態度は甘いものにはならなかったけど、嬉しかったのよ。
それがなくなった。
いつ帰ってくるのか分からない。
本当に帰ってくるのかさえ。
遥は彼について行ったわ。
あの子も優秀な探索者だから。
私だけ置いて行かれた。
決してそんなことはないんだけど。
どうしようもないことなんだけど。
寂しくなってしまった。
そんな時に同じようにダンジョン協会で辛そうな顔をしていた秀明に出会ってしまったの。
彼はもともと私のことは知らなかったみたい。
でも、偶然出会ってしまった。
お互い辛そうな顔で。
なぜか会話になり、食事をし、そして……。
自分でも最低だったと思う。
それでも寂しさからのめり込んだ。
世間では厳しさを増すダンジョン攻略に本当に100層に到達できるのか?と懐疑的な見方も出ていた。
それでも配信の画面に映る紘一は元気で、遥たちとなんとか探索していた。
そこには琴音と綾香、それに那月さんもいた。
秀明は琴音や綾香にも想いがあるようだった。
取り残されたと言う彼にも事情があるのだろう。
世間からはケガで逃げたと言われていたが、彼は日本ダンジョン協会会長の指示に従っただけらしい。
本当かはわからない。
あれ程酷い裏切りや悪事をやって、2人とも逮捕された後だから確認もできない。
嘘かもしれないという想いは無理やり心の奥に押しやってしまった。
でも、寂しそうな彼に自分を重ねた。
逢瀬を続けた。
ただ、この関係はただの浮気だ。
"明星"の探索が終われば終わる。
私は彼を取り戻し、秀明は琴音なのか綾香なのか知らないけど、元に戻る。
彼らが帰ってくるまで。
その寂しさを消すためだけに、肌を重ねた。
そして彼は戻ってきた。
それなのに戻ってこなかった。
悪いのは私よ。
でも、なぜ彼に言うの?
私は秀明を恨んだ。
「つい言ってしまったんだよ。あいつが喧嘩をふっかけてくるからさ。でももういいだろ?出て行ってしまったやつなんかほっとけよ」
最低の男が最低なことを言っている。
自分は恋人を取り戻したくせに。
しかも2人。
最低なことにこいつは琴音とも綾香ともつき合っていた。
2人は知っているのかときいたら、黙っていて欲しいと言われた。
フザケルナ……。
目に涙を貯めた遥が私のことを責める。
「お兄ちゃんのことよ!どうして浮気なんか。しかもあんなやつと!?」
秀明しかいなかったのよ。
あのときは。
あなたは紘一と一緒に行ったからわからないわ。
そんなことを思いながらも私は遥かに子供にはわからないわとしか言えない。
寂しかったとしか……。
「だからってなんであのクズ野郎なのよ!一瞬で治るケガで探索計画から逃げたクズよ?それこそCランクのお姉ちゃんでも治せたでしょ!?」
それは彼の責任じゃないと聞いていたのよ。
でも、そんなことを言っても話にはならないのは分かってる。
紘一が秀明を嫌っていたのも知ってる。
それでも彼しかいなかったのよ。
もうどうでもよくなって、遥に告げる。
「もういいでしょ?終わったことを蒸し返さないで。出て行ったんでしょ?終わりよ、それで」
パシ――――ン!!!!
私は思いっきり妹にひっぱたかれた。




