六条御息所
彩芽はカルチャースクールで知り合った男性、磐根から、アプローチされた。
でも、お断りをした。お友達認識でしか無く、その先は考えられなかったから。
これまで仲良く和気藹々と、彼を含め、教室仲間同士、楽しんでいたのだが、
彼の切ない熱い視線に、何となく気不味くなって、教室もすぐにやめてしまった。
するとその直後から毎晩、巌根の生き霊、が来るようになった。
何故、巌根って判るのか?それは、
匂いもするし、声も聞こえる。
耳元で
何で僕じゃダメなんだぁ。。
と囁かれ、
身体を押さえつけられ、身体をまさぐられる。
彼の身体の重みも、触られている感覚も、ある。
嫌!
意識はクリアで、どんなに嫌でも、彼に身体は押さえつけられ、金縛りにあったように動けない。
そのくせに身体は揺さぶられるのだ、耳に彼の吐息を感じ、彼の臭いに包まれ、
なされるがままに。。
彼が果てるまで‥
彩芽は、ただ、ベッドに横たわっていた。
幾晩も。。
あまりに怖くて、これではいけないと思い、
本屋さんのスピリチュアルコーナーで見つけた本に載っていた結界のおまじないを、試行してみた。
幸いな事に、効果があって、その晩、生き霊は来ず、安眠。
そして無事、朝を迎えた。
それ以後、巌根は来なくなったから、彩芽は心の底からホッとした。
それにしても、生き霊、怖い。
声も、匂いも、重さも、身体の感触まで、存在している。
源氏物語の六条御息所は生き霊になって、夕顔の君、葵上、2人も殺している。
学校の古典授業で習った時は、何を言ってるんだ?物語って変、という感想を持ったのだが、生き霊を体感してしまったからには、
平安時代の人たちの考え方は、本質をついているのでは?と思うようになった。
とにかく、殺されなくて良かった。。
六条御息所に取り殺された葵上、ならぬ、巌根に取り憑かれる「アヤメの上」になってしまうところだったよ。。
死ななかったけど、これはある種のレイプ(相手は無意識だけど、、)
それは良いの?
否、良く無いよね。。
でも死ぬより良いのか。。
と、微妙で究極な選択に、思うところアリの彩芽であった。